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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
24/27

溶岩華を守るもの

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 火山の最奥、熱気はもはや空気を焼き切るほどに濃く、立っているだけで体力が削られていく。

 山頂にたどり着いたハヤトたちの視線の先に、それは鎮座していた。


 ――溶岩でできた巨人。

 その姿は岩ではなく、赤く煮えたぎる液体の塊が固まり、滴り、再び形を戻していく。

 胸の中心には燃えるような核が脈動し、その頭上には赤黒い花が三輪、妖しく輝いていた。


 「……あれが、溶岩華」

 マスリナが息を呑む。

 花はただの植物とは思えない。圧倒的な魔力を帯び、火山そのものの鼓動と同調していた。


 ゴオオオ――!

 ゴーレムが動いた。踏み出した瞬間、地面が波打ち、足元から熱風が噴き上がる。

 「うわっ!」ハヤトは思わず飛び退く。近づくだけで肌が焼けるようだ。


 「私の氷で……!」マスリナが両手を掲げ、冷気を迸らせる。

 だが、溶岩の表面を覆った氷はジュッと音を立て、瞬く間に蒸気へと変わり果てた。

 「……効かない……!」


 リュシオンも前へ躍り出て爪を叩き込む。

 しかし硬化した溶岩の外殻は岩よりも硬く、火花を散らすだけで傷一つつかない。

 反撃の腕が振り下ろされ、大地を裂く。衝撃だけで三人は吹き飛ばされ、転がった。


 「くっ……勝てない……」

 ハヤトは歯を食いしばる。

 「魔法を撃っても、すぐ液体に戻る。姉さんの氷も追いつかない……。倒せるのかどうかすらわからない……」


 ゴーレムの頭上で、三輪の花がゆらめく。

 まるでこちらを試すかのように、妖しい輝きで揺れていた。


 マスリナが苦い表情で言った。

 「……花を手に入れる方法は、本当に“倒すこと”なのかしら? むしろ、この存在を壊せば花まで消えてしまうかもしれない」


 リュシオンは悔しげに拳を震わせた。

 「……けど、近づくことすらできない……! このままじゃ……」


 巨体のゴーレムが轟音をあげ、胸奥の核を赤々と脈打たせる。

 大地が唸り、岩壁が崩れ落ちるような振動が走った。


 「引け!」

 ハヤトの声が裂ける。

 「ここで無理をすれば全滅する! 一度立て直すんだ!」


 迫りくる拳風をかわし、三人は転がるように溶岩の岩陰へ飛び込んだ。

 背後で、ゴーレムの咆哮が火山の空気を震わせる。耳の奥に残響が刺さり、やがて静寂だけが広がった。


 息を荒げながら、三人は壁に背を預けた。

 肌にまとわりつく熱気が、敗北の悔しさをさらに煽る。


 「……っ、情けない」

 リュシオンは唇を噛み、膝に置いた拳を叩いた。

 「ぼくが……もっと強ければ……!」


 マスリナは黙ってポーチを開き、薬瓶を取り出す。

 彼女の指先も震えていた。だが、声は落ち着いていた。

 「今は悔やむより、回復よ。倒れる前に動けなくなる」


 三人はそれぞれポーションをすすり、乾いた喉を潤す。

 甘い薬草の香りが広がり、傷口の痛みがゆるやかに引いていく。

 だが心の焦燥だけは、癒えなかった。


 胸を押さえながら、ハヤトは荒い息を吐いた。

 「……あれは、この山の“主”だ。軽々しく挑める相手じゃない」


 「けど……どうするの?」マスリナが問い返す。

 「課題を果たせなければ、リュシオンは……」


 リュシオンはうつむき、拳を握りしめた。

 「……もう一度挑もう。だが、正面からじゃない。必ず“方法”があるはずだ……」


 火山の熱に包まれながら、三人は決意を胸に刻む。

 ――溶岩華を手に入れるために。

 立て直しの時間は、ほんのわずかしか残されていなかった。

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