溶岩華を守るもの
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
火山の最奥、熱気はもはや空気を焼き切るほどに濃く、立っているだけで体力が削られていく。
山頂にたどり着いたハヤトたちの視線の先に、それは鎮座していた。
――溶岩でできた巨人。
その姿は岩ではなく、赤く煮えたぎる液体の塊が固まり、滴り、再び形を戻していく。
胸の中心には燃えるような核が脈動し、その頭上には赤黒い花が三輪、妖しく輝いていた。
「……あれが、溶岩華」
マスリナが息を呑む。
花はただの植物とは思えない。圧倒的な魔力を帯び、火山そのものの鼓動と同調していた。
ゴオオオ――!
ゴーレムが動いた。踏み出した瞬間、地面が波打ち、足元から熱風が噴き上がる。
「うわっ!」ハヤトは思わず飛び退く。近づくだけで肌が焼けるようだ。
「私の氷で……!」マスリナが両手を掲げ、冷気を迸らせる。
だが、溶岩の表面を覆った氷はジュッと音を立て、瞬く間に蒸気へと変わり果てた。
「……効かない……!」
リュシオンも前へ躍り出て爪を叩き込む。
しかし硬化した溶岩の外殻は岩よりも硬く、火花を散らすだけで傷一つつかない。
反撃の腕が振り下ろされ、大地を裂く。衝撃だけで三人は吹き飛ばされ、転がった。
「くっ……勝てない……」
ハヤトは歯を食いしばる。
「魔法を撃っても、すぐ液体に戻る。姉さんの氷も追いつかない……。倒せるのかどうかすらわからない……」
ゴーレムの頭上で、三輪の花がゆらめく。
まるでこちらを試すかのように、妖しい輝きで揺れていた。
マスリナが苦い表情で言った。
「……花を手に入れる方法は、本当に“倒すこと”なのかしら? むしろ、この存在を壊せば花まで消えてしまうかもしれない」
リュシオンは悔しげに拳を震わせた。
「……けど、近づくことすらできない……! このままじゃ……」
巨体のゴーレムが轟音をあげ、胸奥の核を赤々と脈打たせる。
大地が唸り、岩壁が崩れ落ちるような振動が走った。
「引け!」
ハヤトの声が裂ける。
「ここで無理をすれば全滅する! 一度立て直すんだ!」
迫りくる拳風をかわし、三人は転がるように溶岩の岩陰へ飛び込んだ。
背後で、ゴーレムの咆哮が火山の空気を震わせる。耳の奥に残響が刺さり、やがて静寂だけが広がった。
息を荒げながら、三人は壁に背を預けた。
肌にまとわりつく熱気が、敗北の悔しさをさらに煽る。
「……っ、情けない」
リュシオンは唇を噛み、膝に置いた拳を叩いた。
「ぼくが……もっと強ければ……!」
マスリナは黙ってポーチを開き、薬瓶を取り出す。
彼女の指先も震えていた。だが、声は落ち着いていた。
「今は悔やむより、回復よ。倒れる前に動けなくなる」
三人はそれぞれポーションをすすり、乾いた喉を潤す。
甘い薬草の香りが広がり、傷口の痛みがゆるやかに引いていく。
だが心の焦燥だけは、癒えなかった。
胸を押さえながら、ハヤトは荒い息を吐いた。
「……あれは、この山の“主”だ。軽々しく挑める相手じゃない」
「けど……どうするの?」マスリナが問い返す。
「課題を果たせなければ、リュシオンは……」
リュシオンはうつむき、拳を握りしめた。
「……もう一度挑もう。だが、正面からじゃない。必ず“方法”があるはずだ……」
火山の熱に包まれながら、三人は決意を胸に刻む。
――溶岩華を手に入れるために。
立て直しの時間は、ほんのわずかしか残されていなかった。




