火山の試練、刻まれた残り時間
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
サラマンダーを退けた一行は、なおも荒れ狂う溶岩の大地を踏み越え、火山の奥へと足を進めていた。
吹き上がる熱気は肌を焼く刃のようで、空気は粘り気を帯び、肺に取り込むたび喉が灼ける。
頭上の空はすでに茜から漆黒へと沈み、闇を裂くように火口の赤光だけが世界を染めていた。
岩壁に映る炎のゆらめきは、怪物の影が蠢いているかのようで、心を削る。
「……もう、限界だ……」
リュシオンが膝をつき、額の小さな角から滴る汗を押さえた。
背の灰色の翼は熱に萎え、羽ばたきどころか、ただ重荷となって垂れ下がっている。
竜神族ですらこの有様だ。人間ならば、なおさら。
それでもハヤトとマスリナは、ただ気力だけで歩を進めていた。
肩で息をつきながらも、決して瞳の光を消さずに。
やがて、マスリナが足を止め、周囲を見渡した。
「ここで無理をすれば……花どころか、山を下りる前に倒れるわ」
その声は張り詰めていたが、決意の色を帯びていた。
「――休みましょう。今はそれしか道がない」
溶岩の光が揺れ、休息を促すように赤黒く瞬いていた。
夜はとうに落ちていたが、この灼熱の世界に、星空など届くはずもない。
「でも……」ハヤトは口を開く。「俺たちに残された時間は多くない。火山の中腹までで一日。残り二日しかないけど、町へ戻るにも半日は必要……つまり、本当に動けるのは一日だけだ」
火山は彼らの冒険を拒むように、赤く脈打つ溶岩の流れを響かせている。
圧倒的な熱量、空気に漂う硫黄の臭い、岩肌を伝う振動。全てが「ここは人の踏み入れる場所ではない」と告げていた。
リュシオンが拳を握りしめ、うつむいた。
「ぼくのせいで、こんな無茶を……」
その肩に、ハヤトが手を置く。
「違う。お前がいたから、ここまで来られた。姉さんの氷があって、俺の魔法があって……そして、お前の爪があった。全部が揃って、今ここにいるんだ」
マスリナも静かにうなずく。
「ええ、リュシオン。誰一人欠けてもダメなの。だから一緒に行きましょう」
小さな火を灯し、三人は火山岩の影に腰を下ろした。
マスリナが作ったポーションを分け合い、硬い携帯食を口にする。
炎の山の中で、わずかな休息のひととき。だが、その沈黙すらも、熱と鼓動に打ち消されていった。
ハヤトは夜空を仰ぐ。火山の煙に覆われ、星はほとんど見えない。
(実質あと一日……。その一日で溶岩華を手に入れ、戻らなきゃならない)
胸の奥で「調律」がざわめくのを感じた。力はある。だが暴走すれば全てを失う。
リュシオンは火口の方を見つめ、唇を噛みしめる。
「もし花を手に入れられなかったら……リアナに、僕は一生見下されるんだろうな」
「それでもいいじゃない」マスリナが笑った。「誰かに認められるためじゃない。あなた自身のために登るのよ」
その言葉に、リュシオンの瞳が赤く燃えた。
ハヤトもまた静かに拳を握る。
――残された時間は、あと一日。
火山の心臓部へ、彼らは挑まねばならなかった。




