火山の麓、燃え盛る蛇
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
火山の麓に足を踏み入れた瞬間、熱気が容赦なく肌を焦がした。
赤くただれた地面、空気は重く淀み、息を吸うだけで肺が焼けつくようだ。
リュシオンは、少し平気そうではあった。
「こ、ここが……溶岩華が咲く山……」
リュシオンが肩で息をしながらつぶやく。背中の小さな羽が熱風に煽られて震えた。
だが、次の瞬間。
溶岩の割れ目から、炎をまとった巨大な蛇が姿を現した。
――サラマンダー。
竜になりきれなかった炎の魔物。その皮膚は黒鉄のような鱗に覆われ、真紅の眼がぎらついている。
「嘘だろ……! こんなの相手にするのかよ!」
ハヤトは額に汗を流しつつ、魔力を練り上げた。
サラマンダーが口を開け、炎の奔流を吐き出す。
「くっ……来る!」
マスリナが咄嗟に結界を展開するも、熱に押され、きしむような音が響いた。
「押しきれないっ!」
その瞬間、ハヤトが前へ飛び出した。
「俺が引きつける! リュシオン、隙を狙え!」
「わ、わかった!」
リュシオンの体から淡い竜気がにじむ。角は未完成でも、その力は確かに竜の血を宿していた。
ハヤトが魔力の弾を連射し、サラマンダーの注意を引く。
その横合いからリュシオンが飛び込み、鱗の隙間に鋭い爪で切り裂いた。
「これでっ!」
だが、硬い鱗は浅くしか削れない。
サラマンダーが怒り狂い、体をしならせ、鞭のように尾を振るった。
「危ない!」
ハヤトがリュシオンを突き飛ばす。その衝撃で地面に転がったリュシオンが必死に立ち上がる。
――その時。
マスリナの胸に、ひやりとした感覚が広がった。
熱に押され、炎をかき消す何かを強く望んだ瞬間、指先から淡い蒼光が走る。
「……凍れっ!」
次の瞬間、氷の槍が生まれ、炎の蛇の頭部を貫いた。
轟音と共に蒸気が立ちこめ、サラマンダーの動きが止まる。
リュシオンがすかさず飛びかかり、胸元の鱗を砕くように爪を突き立てた。
「これで終わりだぁっ!」
サラマンダーが断末魔の咆哮を上げ、崩れ落ちる。
静寂が訪れ、熱風だけが残った。
マスリナは震える手を見つめ、息を呑む。
「今の……氷の魔法……? 私、火山で……氷を……」
ハヤトは驚きに目を見開いたが、すぐに笑った。
「すげぇよ、姉さん! これで火山だって怖くない!」
リュシオンも汗まみれの顔を上げ、必死に笑った。
「やっぱり……ぼく、一人じゃないんだね」
3人の視線が交わる。
火山の試練は、まだ始まったばかりだった。




