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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
21/27

竜神族の試練

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 蒼光がきらめき、宙に浮かぶ水の刃が一斉に震えた。

 「竜神族の矜持――その重みを人間が理解できるはずもない」

 リアナが指を鳴らすと、水刃が飛翔する。鋭い音を立て、光の矢のようにハヤトへと迫った。


 「くっ……!」

 ハヤトは咄嗟に剣を抜き、横薙ぎに払った。水刃が火花を散らし、霧のように弾け飛ぶ。だが次の瞬間、さらに三本が襲いかかる。

 「まだ行けるな、リュシオン!」

 振り返らずに叫び、ハヤトは前へ踏み出した。仲間を守るため、彼は躊躇しない。


 広場に乾いた衝撃音が響いた。ハヤトの剣と、リアナが編んだ水の盾がぶつかり合う。

 「人間ごときが……!」

 リアナは冷笑を浮かべ、片腕を振り下ろす。水柱が噴き上がり、ハヤトの足元を絡め取る。冷たい水が鎖のように絡みつき、動きを封じようとする。


 「……っ、甘く見るな!」

 ハヤトは力を込め、足にまとわりつく水を斬り払った。その瞬間、刃に光が走る。――仲間を守るという想いが、彼に新たな力を宿していた。

 閃光のごとき一撃が、リアナの目前まで迫る。


 だが、リアナは一歩も退かなかった。

 水が渦を巻き、巨大な盾となって剣を受け止める。轟音と共に飛沫が弾け、周囲の観客が息を呑んだ。


 「ほう……人間にしては、悪くない」

 リアナは水の盾を解き、蒼光を収めて一歩下がる。ハヤトも剣を構えたまま息を荒げていた。


 「……どうして止める」

 ハヤトが問いかけると、リアナの瞳が冷たく光った。


 「今ので十分よ。あなたの剣は確かに仲間のために振るわれていた。けれど――それだけでは竜神族の世界では生き残れない」


 彼女はリュシオンに視線を向ける。

 「リュシオン。あなたが仲間と共に歩みたいのなら、証明しなさい。竜神族に必要なのは、誇りと力。そのどちらも欠けていてはならない」


 泉のほとりに静寂が戻る。


 リアナは、静かに泉の水を収めると、冷たくも厳しい眼差しをリュシオンへ向けた。


 「いいわ。今ここで争っても無意味ね。……代わりに、あなたに課題を与える」


 リュシオンの肩がびくりと震える。

 「か、課題……?」


 リアナは淡々と告げた。

 「南に火山がある。その山頂に咲く《溶岩華》。火の竜王に捧げられる神聖な花よ。あれを取ってきなさい」


 その名が響いた瞬間、広場の空気がざわめく。

 通りがかりの人々が顔を見合わせ、口々にささやいた。

 「溶岩華だって……」「あんなの、竜神族でも命懸けじゃ……」


 リアナは唇を弧に曲げる。

 「溶岩の中でしか咲かない花。竜の翼を持つ者だけが手にできる。もし“未完成”のあなたに取れるのなら、欠陥呼ばわりは撤回してあげる。ハハハ」


 リュシオンは真っ青になった。

 背中の小さな羽が、無力を象徴するかのように震える。

 「で、でも……ぼくは飛べない。そんな場所……」


 リアナは一切の情けを見せず、言い放つ。

 「できないのなら、それで終わり。あなたは竜神族を名乗る資格がない。……それだけのこと」


 ハヤトが一歩踏み出した。

 「待てよ! そんな無茶な……」


 だがマスリナがハヤトの腕を掴んだ。

 「ハヤト、落ち着いて。……これはただの意地悪じゃない。リアナは本気で“竜神族の証”を求めているのよ」


 リアナは視線を逸らさずに言い切る。

 「三日の猶予を与える。花を持ち帰れなければ――リュシオン、あなたは竜神族を名乗らず、この町を去りなさい。三日後この場所で待っているわ。」


 リュシオンの胸が締めつけられる。

 俯いた瞳に涙が滲むが、次の瞬間、彼は小さな拳を握りしめた。

 「……わかった。ぼくは行く。必ず、溶岩華を取ってみせる」


 その声は震えていたが、確かな決意があった。

 ハヤトとマスリナは顔を見合わせ、微笑んだ。


 「じゃあ、決まりだな」

 「ええ。リュシオン一人じゃない。私たちも一緒よ」


 リアナの眉がわずかに動いた。

 「……人間が竜神族の試練に関わるなんて、滑稽ね。でも……いいわ。どうせ無理なのだから」


 彼女の冷笑を背に受けながら、三人は決意を新たにした。

 火山へ――竜神族の試練に挑むために。

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