竜神族の試練
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
蒼光がきらめき、宙に浮かぶ水の刃が一斉に震えた。
「竜神族の矜持――その重みを人間が理解できるはずもない」
リアナが指を鳴らすと、水刃が飛翔する。鋭い音を立て、光の矢のようにハヤトへと迫った。
「くっ……!」
ハヤトは咄嗟に剣を抜き、横薙ぎに払った。水刃が火花を散らし、霧のように弾け飛ぶ。だが次の瞬間、さらに三本が襲いかかる。
「まだ行けるな、リュシオン!」
振り返らずに叫び、ハヤトは前へ踏み出した。仲間を守るため、彼は躊躇しない。
広場に乾いた衝撃音が響いた。ハヤトの剣と、リアナが編んだ水の盾がぶつかり合う。
「人間ごときが……!」
リアナは冷笑を浮かべ、片腕を振り下ろす。水柱が噴き上がり、ハヤトの足元を絡め取る。冷たい水が鎖のように絡みつき、動きを封じようとする。
「……っ、甘く見るな!」
ハヤトは力を込め、足にまとわりつく水を斬り払った。その瞬間、刃に光が走る。――仲間を守るという想いが、彼に新たな力を宿していた。
閃光のごとき一撃が、リアナの目前まで迫る。
だが、リアナは一歩も退かなかった。
水が渦を巻き、巨大な盾となって剣を受け止める。轟音と共に飛沫が弾け、周囲の観客が息を呑んだ。
「ほう……人間にしては、悪くない」
リアナは水の盾を解き、蒼光を収めて一歩下がる。ハヤトも剣を構えたまま息を荒げていた。
「……どうして止める」
ハヤトが問いかけると、リアナの瞳が冷たく光った。
「今ので十分よ。あなたの剣は確かに仲間のために振るわれていた。けれど――それだけでは竜神族の世界では生き残れない」
彼女はリュシオンに視線を向ける。
「リュシオン。あなたが仲間と共に歩みたいのなら、証明しなさい。竜神族に必要なのは、誇りと力。そのどちらも欠けていてはならない」
泉のほとりに静寂が戻る。
リアナは、静かに泉の水を収めると、冷たくも厳しい眼差しをリュシオンへ向けた。
「いいわ。今ここで争っても無意味ね。……代わりに、あなたに課題を与える」
リュシオンの肩がびくりと震える。
「か、課題……?」
リアナは淡々と告げた。
「南に火山がある。その山頂に咲く《溶岩華》。火の竜王に捧げられる神聖な花よ。あれを取ってきなさい」
その名が響いた瞬間、広場の空気がざわめく。
通りがかりの人々が顔を見合わせ、口々にささやいた。
「溶岩華だって……」「あんなの、竜神族でも命懸けじゃ……」
リアナは唇を弧に曲げる。
「溶岩の中でしか咲かない花。竜の翼を持つ者だけが手にできる。もし“未完成”のあなたに取れるのなら、欠陥呼ばわりは撤回してあげる。ハハハ」
リュシオンは真っ青になった。
背中の小さな羽が、無力を象徴するかのように震える。
「で、でも……ぼくは飛べない。そんな場所……」
リアナは一切の情けを見せず、言い放つ。
「できないのなら、それで終わり。あなたは竜神族を名乗る資格がない。……それだけのこと」
ハヤトが一歩踏み出した。
「待てよ! そんな無茶な……」
だがマスリナがハヤトの腕を掴んだ。
「ハヤト、落ち着いて。……これはただの意地悪じゃない。リアナは本気で“竜神族の証”を求めているのよ」
リアナは視線を逸らさずに言い切る。
「三日の猶予を与える。花を持ち帰れなければ――リュシオン、あなたは竜神族を名乗らず、この町を去りなさい。三日後この場所で待っているわ。」
リュシオンの胸が締めつけられる。
俯いた瞳に涙が滲むが、次の瞬間、彼は小さな拳を握りしめた。
「……わかった。ぼくは行く。必ず、溶岩華を取ってみせる」
その声は震えていたが、確かな決意があった。
ハヤトとマスリナは顔を見合わせ、微笑んだ。
「じゃあ、決まりだな」
「ええ。リュシオン一人じゃない。私たちも一緒よ」
リアナの眉がわずかに動いた。
「……人間が竜神族の試練に関わるなんて、滑稽ね。でも……いいわ。どうせ無理なのだから」
彼女の冷笑を背に受けながら、三人は決意を新たにした。
火山へ――竜神族の試練に挑むために。




