水竜の矜持
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
広場の空気は凍りついていた。
泉の前に立つ少女――リアナの瞳は、冷たい水面のように揺らがず、リュシオンを射抜いている。
「あなたが外の世界にいるなんて……竜神族の恥をさらしているのと同じよ」
その言葉にリュシオンは胸を抉られるように俯いた。
ハヤトが一歩踏み出す。
「恥? 何を言ってるんだ。リュシオンは俺たちの仲間だ。助け合って、一緒に生きてる。それが恥なもんか!」
だがリアナは微動だにせず、むしろ彼を見下すように笑った。
「人間ごときに下り、人間ごときに庇われるなんて――情けないにも程があるわ。竜神族は誇りと力によって存在を証明する。欠陥は、許されない」
その言葉に、マスリナの眉がぴくりと震える。
「……力だけが全てじゃないわ。今のあなたの言葉、聞いていて胸が痛む」
しかしリアナは取り合わない。
「価値観などどうでもいい。私は“水竜の巫女”。竜神族の名を汚す者を見過ごすわけにはいかない」
その瞬間、泉の水面がざわりと揺れた。
リアナの周囲に蒼い光が芽吹き、透明な水の刃が花弁のように浮かび上がる。
「リュシオン。旅を続けたいなら――その価値を証明してみせなさい。できなければ、ここで力尽きるだけ」
挑発とも宣告とも取れる声が広場に響き、群衆は息を呑んだ。
リュシオンの背の小さな翼が震え、喉は乾ききり、声はかすれる。
「ぼ、ぼくは……」
幼いころ浴び続けた嘲笑と侮蔑が蘇り、視界が揺らいだ。心臓が恐怖に掻き立てられ、足は地に縫い付けられたように動かない。
そのとき――強い手が彼の肩を掴んだ。
「大丈夫だ、リュシオン」
ハヤトの声は熱を帯び、真っ直ぐだった。
「お前はもう一人じゃない。俺たちがいる」
マスリナも凛と頷く。
「そう。もし彼を“試す”つもりなら……私たちも一緒に受けて立つ」
リアナの目が細まり、唇に冷笑が浮かぶ。
「……ふふ。人間にできることなど、何もないのに。なら証明してみせなさい――欠けた翼にどれほどの価値があるのか。仲間に縋る愚かさを、ここで思い知るといい」
水が渦を巻き、広場全体に戦いの気配が満ちていく。
恐怖に打ち鳴らされるリュシオンの心臓。だがその背に触れる仲間の手が、確かに勇気を流し込んでいた。
――彼は今、初めて一人ではなかった。




