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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
2/27

姉弟の逃避行

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 炎に包まれた村を背に、マスリナとハヤトは南を目指した。追っ手の気配が消えた後も、二人は歩みを止めなかった。止まれば恐怖が押し寄せ、心が崩れてしまうと分かっていたからだ。


 三日三晩、ほとんど眠らずに進んだ。昼は容赦なく照りつける陽射しに晒され、夜は冷え込みに震えながら、互いの手を離さぬように歩いた。森を抜け、川を渡り、石ころだらけの道を裸足同然の足で進む。その旅は、子供にとっては拷問のようでありながら、同時に生き延びるための試練でもあった。


 ようやく視界に白い城壁が見えたとき、ハヤトは膝から崩れ落ちそうになった。そこが「ルファン」と呼ばれる南の町だった。交易の要所として栄え、多くの人々が行き交う場所。幼い二人には巨大な世界の入口のように思えた。


 町の門を抜けた瞬間、人々のざわめきや香辛料の匂い、商人の掛け声が一気に押し寄せる。見慣れぬ光景に胸が高鳴る一方、二人はすぐに現実を思い知らされる。

 ――何をするにも金が要る。宿も食事も、ただで手に入るものではない。


 握りしめていたのは、母の遺品の小さな革袋。中に入っていたのは銅貨が数枚。しばらくの食糧にはなるが、長くはもたない。


 その夜、宿代を惜しんで路地裏に身を寄せた二人は、星を仰ぎながら互いに言葉を交わした。

 「これから……どうしようか」

 ハヤトの声は震えていた。村を失った喪失感、両親を守れなかった無力感、そして未来への不安が重なっていた。


 マスリナはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

 「お父さんも、お母さんも冒険者だった。私たちも……冒険者になろう」


 その言葉に、ハヤトは目を見開いた。冒険者――危険な魔物と対峙し、依頼をこなす者。大人ですら命を落とす世界に、子供の自分たちが足を踏み入れるなど、常識的には無謀にすぎた。


 しかし同時に、心の奥に小さな灯がともるのを感じた。

 冒険者になれば、両親の背中を追える。力をつければ、もう誰にも奪われない未来を掴める。何より、生きるために必要な糧を得る道でもある。


 「……僕でも、できるのかな」

 「できるよ。私が一緒にいる」

 マスリナの瞳には、炎に抗った両親と同じ強さが宿っていた。


 こうして姉弟は決意した。幼くとも、生きるために、そしていつか両親の無念を晴らすために。

 翌朝、まだ陽が昇る前に二人は冒険者ギルドの扉を押し開けた。


 重厚な木の扉の向こうには、ざわめきと酒の匂い、そして様々な視線が彼らを迎えた。粗野な笑い声の中に混じる好奇の眼差し。その場違いな空気にハヤトの胸は強張ったが、それでも一歩を踏み出した。


 ――ここから、姉弟の新しい人生が始まる。


 それは決して平坦ではなく、数多の危険と試練に満ちている。けれども、二人にとっては失ったすべてを取り戻すための唯一の道だった。

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