不完全の証
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
森を抜け、三人は街道へと出た。
夕日が地平線に沈みかけ、道の影を長く引き伸ばしている。
「ねえ、リュシオン……」
歩きながら、マスリナが柔らかく声をかけた。
「さっき、里を追い出されたって言ってたけど……どうして?」
リュシオンは俯いた。しばらく唇を噛み、やがて決意したように顔を上げる。
額の小さな角に指を添え、背中の羽を広げて見せた。
「……見てわかるでしょ。ぼく、竜神族なのに角は片方しか伸びてない。背中の翼も、左は大きいけど右は小さすぎるんだ」
ハヤトは思わず目を見張った。
確かに、竜神族といえば均整の取れた角と翼が象徴だと聞いていた。だがリュシオンの姿は、その象徴がちぐはぐに崩れている。
「両親は強い竜神族だった。炎を呼び、風を操る。なのにぼくは……火も風も、うまく出せなかった。里のみんなから“欠陥竜”って呼ばれて……」
声が震え、涙がにじむ。
「いじめられて、笑われて……両親も心配してくれたけど、だんだんぼくを見る目が重くなって……。ついに、試練も果たせないなら里にいらないって……」
足元の石を蹴り飛ばすようにして、リュシオンは言葉を吐き出した。
「ぼくなんて、生まれてこなきゃよかったんだ!」
空気が重くなり、街道に沈黙が落ちる。
だがハヤトは、ぎゅっと拳を握った。
「それは違う!」
リュシオンが顔を上げる。
「俺だってそうだった。姉さんは何でもできるのに、俺はいつも比べられて、できないって言われ続けて……。でも――」
マスリナが驚いたように弟を見た。普段は口にしない心の傷を、彼が初めて他人に打ち明けたからだ。
「でもさ、俺は生きてるだけで意味があるって、最近ようやく思えるようになったんだ。強くなれなくても、姉さんを守りたいって気持ちがある。それが俺の力なんだ」
リュシオンは目を瞬かせた。
マスリナはそっと彼の頭を撫で、優しく笑った。
「あなたが“欠陥”なら、私たちも“欠陥”よ。でも、それは欠点じゃなくて、可能性だと思うの」
リュシオンの瞳に、ゆっくりと涙があふれた。
「……ぼく、まだ生きてていいのかな」
「もちろんだ」ハヤトは迷わず言った。「一緒に隣町まで行こう。そこで、少しずつ考えればいいさ」
小さな手と大きな手が重なり、三人の間に温かな火が灯った。




