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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
18/27

不完全の証

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 森を抜け、三人は街道へと出た。

 夕日が地平線に沈みかけ、道の影を長く引き伸ばしている。


 「ねえ、リュシオン……」

 歩きながら、マスリナが柔らかく声をかけた。

 「さっき、里を追い出されたって言ってたけど……どうして?」


 リュシオンは俯いた。しばらく唇を噛み、やがて決意したように顔を上げる。

 額の小さな角に指を添え、背中の羽を広げて見せた。


 「……見てわかるでしょ。ぼく、竜神族なのに角は片方しか伸びてない。背中の翼も、左は大きいけど右は小さすぎるんだ」


 ハヤトは思わず目を見張った。

 確かに、竜神族といえば均整の取れた角と翼が象徴だと聞いていた。だがリュシオンの姿は、その象徴がちぐはぐに崩れている。


 「両親は強い竜神族だった。炎を呼び、風を操る。なのにぼくは……火も風も、うまく出せなかった。里のみんなから“欠陥竜”って呼ばれて……」


 声が震え、涙がにじむ。

 「いじめられて、笑われて……両親も心配してくれたけど、だんだんぼくを見る目が重くなって……。ついに、試練も果たせないなら里にいらないって……」


 足元の石を蹴り飛ばすようにして、リュシオンは言葉を吐き出した。

 「ぼくなんて、生まれてこなきゃよかったんだ!」


 空気が重くなり、街道に沈黙が落ちる。

 だがハヤトは、ぎゅっと拳を握った。


 「それは違う!」

 リュシオンが顔を上げる。

 「俺だってそうだった。姉さんは何でもできるのに、俺はいつも比べられて、できないって言われ続けて……。でも――」

 マスリナが驚いたように弟を見た。普段は口にしない心の傷を、彼が初めて他人に打ち明けたからだ。


 「でもさ、俺は生きてるだけで意味があるって、最近ようやく思えるようになったんだ。強くなれなくても、姉さんを守りたいって気持ちがある。それが俺の力なんだ」


 リュシオンは目を瞬かせた。

 マスリナはそっと彼の頭を撫で、優しく笑った。

 「あなたが“欠陥”なら、私たちも“欠陥”よ。でも、それは欠点じゃなくて、可能性だと思うの」


 リュシオンの瞳に、ゆっくりと涙があふれた。

 「……ぼく、まだ生きてていいのかな」

 「もちろんだ」ハヤトは迷わず言った。「一緒に隣町まで行こう。そこで、少しずつ考えればいいさ」


 小さな手と大きな手が重なり、三人の間に温かな火が灯った。

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