竜の子
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
オークの棍棒が唸りを上げる。だが、もう以前のように圧倒されはしなかった。
「マスリナ、右を頼む!」
「わかった!」
姉が閃光を走らせて視界を奪う。その瞬間、ハヤトは両手を掲げ、魔力を込める。
――父のように、一撃に魔力を込めるだけじゃない。
意識を分割し、細かく刻んで放つ。
「連射だっ!」
炎の矢が次々と紡がれ、矢継ぎ早にオークの全身を撃ち抜いた。
怒号も上げきれぬまま、巨体は前のめりに倒れる。
もう一匹のオークは背後から迫ろうとするが、マスリナが薬草のエキスを注ぎ込んだ爆発玉を投げつけた。
閃光と衝撃で怯んだところを、ハヤトが一閃――剣に宿した魔力の刃で断ち割る。
「ふう……」
土煙が収まり、静寂が戻った。
◇
震えていた竜神族の子供が、恐る恐る二人に近づく。
銀色の鱗が光に反射してきらめく。まだ幼いが、背筋には気品があった。
「す、すごい……あんなオークを、こんなに早く……」
ハヤトは剣を肩に担ぎ、息を整えながら笑った。
「大丈夫か? 怪我はない?」
子供は小さく頷いた。
「……ありがとう。ぼくは〈リュシオン〉。竜神族の里から来たんだ」
マスリナが目を細める。
「竜神族の……あなたが、どうしてこんな場所に?」
リュシオンは唇を噛んだ。
「ぼくは……里から追い出されたんだ。力が足りないって。試練を果たせないなら、竜神族の名を名乗るなって……」
幼い声が震えていた。
ハヤトとマスリナは顔を見合わせる。あまりにも自分たちの境遇に重なる話だったからだ。
優秀な姉と比べられ、自分だけが未熟だと感じ続けた日々――ハヤトは思わず拳を握りしめた。
「……そんなの、間違ってる。誰だって最初は弱いんだ」
リュシオンが驚いたように目を瞬かせる。
マスリナは弟の肩に手を置いた。
「でも、弱さを理由に居場所を失う子供がいるのは、放っておけないわね」
リュシオンの瞳に、光が戻っていく。
「君たちは……ぼくを置いていかない?」
「当たり前だろ。さ、町まで一緒に行こう」
その手を掴んだ瞬間、ハヤトの胸に確かな決意が芽生えた。
――この子を守る。それが、俺の新しい使命だ。




