旅路の邂逅
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
ギルドで新たに受けた依頼は、隣町への届け物だった。距離にしておよそ四日。
単なるおつかいとはいえ、街道を外れれば魔物は容赦なく襲いかかってくる。ハヤトとマスリナは、背中の荷物を確かめ合い、門を出発した。
◇一日目◇
茂みがざわめき、黄色い目が幾つも浮かぶ。小鬼――ゴブリンが現れた。
粗末な棍棒を振り上げ、奇声を上げながら突進してくる。
ハヤトは一歩踏み込み、剣を振るう。火花のように散る魔力の斬撃が軌跡を描き、ゴブリンの肩を裂いた。
「……やるじゃない、ハヤト」
背後から聞こえるマスリナの声は、まるで風に押される帆のように彼を前へと運ぶ。
「まだ……まだ行ける!」
剣の重さを腕に刻み込みながら、ハヤトは確実に一匹、また一匹と斬り伏せていった。
茂みの奥に散る血の臭い、飛び散る泥、耳にまとわりつく断末魔――それらを越えて、弟の刃は迷いなく進んだ。
◇二日目◇
大地が不意に揺れ、地割れのような裂け目から巨体のワームが姿を現した。
「くっ……!」
砂混じりの風圧に体が後ろへ押され、呑み込まれそうになる瞬間――。
マスリナの投げた薬瓶が弾け、爆煙と強烈な臭気が視界を覆う。
「今!」
姉の声が響き、ハヤトは光をまとった剣を両手で振り下ろした。
閃光の一撃が頭部を砕き、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。
息を整える暇もなく、夜には群れる巨大なネズミが押し寄せた。
闇の中、赤い瞳が無数に光る。足元を素早く駆け回り、牙をむく小さな影。
「ちょ、速い……!」
「数を数えるのも無駄ね!」
二人は背中を預け合い、乱れ飛ぶ群れに剣と魔法を繰り出した。噛みつかれれば一瞬で肉を削られる。汗で髪が張り付き、息が荒くなる。
やっとの思いで最後の一匹を倒した時、二人は膝に手をつき、笑い合った。
「ふう……ネズミの方が地味に嫌だね」
「確かに……数が多すぎる」
剣の刃は欠け、衣は泥と血にまみれていた。それでも二人の瞳は前を向いていた。
こうして二日間を戦い抜き、道程を確実に縮めていく――その歩みは確かに、姉弟を強くしていた。
◇三日目◇
朝霧に包まれた森。木々の奥から、低く唸る声と悲鳴が響いた。
「……助けを呼んでる?」
マスリナが足を止め、耳を澄ませる。
音のする方へ駆けると、そこには光景が広がっていた。
大柄なオークが二匹、ひとりの子供を追い詰めていたのだ。
子供の背には小さな鱗がきらめき、額には短い角――竜神族の証。
彼は涙を堪えながらも木の枝を振り回し、必死に抵抗していた。
「竜神族……!」
マスリナの目が見開かれる。滅多に姿を見せぬ、古より竜と契約を交わしたとされる高貴な一族。
だが、いまは高貴さもなく、ただ命の危機にさらされている。
オークの棍棒が振り下ろされ、木片が飛び散る。
「やめろっ!」
ハヤトは迷わず飛び出した。
剣がオークの棍棒を受け止め、衝撃が腕に走る。
「ぐっ……!」
力で押し潰されそうになる。
「ハヤト!」
マスリナの声と共に、爆ぜるような閃光がオークの顔を焼いた。
竜神族の子供が怯えた目で二人を見つめる。
「……助けて、くれるの?」
ハヤトは歯を食いしばり、叫んだ。
「当たり前だ! 子供を見殺しになんてできるか!」
森に再び唸り声が響く。
――強敵、オークとの死闘が始まろうとしていた。




