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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
16/27

旅路の邂逅

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 ギルドで新たに受けた依頼は、隣町への届け物だった。距離にしておよそ四日。

 単なるおつかいとはいえ、街道を外れれば魔物は容赦なく襲いかかってくる。ハヤトとマスリナは、背中の荷物を確かめ合い、門を出発した。


 ◇一日目◇

 茂みがざわめき、黄色い目が幾つも浮かぶ。小鬼――ゴブリンが現れた。

 粗末な棍棒を振り上げ、奇声を上げながら突進してくる。


 ハヤトは一歩踏み込み、剣を振るう。火花のように散る魔力の斬撃が軌跡を描き、ゴブリンの肩を裂いた。

 「……やるじゃない、ハヤト」

 背後から聞こえるマスリナの声は、まるで風に押される帆のように彼を前へと運ぶ。

 「まだ……まだ行ける!」

 剣の重さを腕に刻み込みながら、ハヤトは確実に一匹、また一匹と斬り伏せていった。

 茂みの奥に散る血の臭い、飛び散る泥、耳にまとわりつく断末魔――それらを越えて、弟の刃は迷いなく進んだ。


 ◇二日目◇

 大地が不意に揺れ、地割れのような裂け目から巨体のワームが姿を現した。

 「くっ……!」

 砂混じりの風圧に体が後ろへ押され、呑み込まれそうになる瞬間――。

 マスリナの投げた薬瓶が弾け、爆煙と強烈な臭気が視界を覆う。

 「今!」

 姉の声が響き、ハヤトは光をまとった剣を両手で振り下ろした。

 閃光の一撃が頭部を砕き、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。


 息を整える暇もなく、夜には群れる巨大なネズミが押し寄せた。

 闇の中、赤い瞳が無数に光る。足元を素早く駆け回り、牙をむく小さな影。

 「ちょ、速い……!」

 「数を数えるのも無駄ね!」

 二人は背中を預け合い、乱れ飛ぶ群れに剣と魔法を繰り出した。噛みつかれれば一瞬で肉を削られる。汗で髪が張り付き、息が荒くなる。

 やっとの思いで最後の一匹を倒した時、二人は膝に手をつき、笑い合った。

 「ふう……ネズミの方が地味に嫌だね」

 「確かに……数が多すぎる」


 剣の刃は欠け、衣は泥と血にまみれていた。それでも二人の瞳は前を向いていた。

 こうして二日間を戦い抜き、道程を確実に縮めていく――その歩みは確かに、姉弟を強くしていた。


 ◇三日目◇

 朝霧に包まれた森。木々の奥から、低く唸る声と悲鳴が響いた。

 「……助けを呼んでる?」

 マスリナが足を止め、耳を澄ませる。


 音のする方へ駆けると、そこには光景が広がっていた。

 大柄なオークが二匹、ひとりの子供を追い詰めていたのだ。

 子供の背には小さな鱗がきらめき、額には短い角――竜神族の証。

 彼は涙を堪えながらも木の枝を振り回し、必死に抵抗していた。


 「竜神族……!」

 マスリナの目が見開かれる。滅多に姿を見せぬ、古より竜と契約を交わしたとされる高貴な一族。


 だが、いまは高貴さもなく、ただ命の危機にさらされている。

 オークの棍棒が振り下ろされ、木片が飛び散る。


 「やめろっ!」

 ハヤトは迷わず飛び出した。


 剣がオークの棍棒を受け止め、衝撃が腕に走る。

 「ぐっ……!」

 力で押し潰されそうになる。


 「ハヤト!」

 マスリナの声と共に、爆ぜるような閃光がオークの顔を焼いた。


 竜神族の子供が怯えた目で二人を見つめる。

 「……助けて、くれるの?」


 ハヤトは歯を食いしばり、叫んだ。

 「当たり前だ! 子供を見殺しになんてできるか!」


 森に再び唸り声が響く。

 ――強敵、オークとの死闘が始まろうとしていた。


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