癒しの雫
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。
なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
戦いの余韻が消えぬ森の中。
ゴブリンリーダーの死骸を前に、ハヤトもリオたちもその場にへたり込んでいた。呼吸は荒く、傷は深い。まともに歩くことすらできない者もいる。
「……はぁ、もう限界だな。これじゃ町に戻るどころか、森を出るのも無理だ」
リオが苦笑混じりに呟いた。
その時、マスリナがそっと腰のポーチを開く。血に濡れた薬草と小瓶、そして彼女自身の魔力がまだかすかに残っている。
「待ってて。――少し、私に任せて」
彼女は、魔法で水を作り薬草を砕き、さらに魔力を通し、瞬く間に淡い緑色の液体を生成していく。小瓶の中で光がゆらめき、みるみるうちに澄んだエメラルドの液体に変わった。
「まさか……今、この場で作ったのか?」
リオが目を見開く。
「はい。母から教わった魔法薬学です。これを飲めば、少しは楽になります」
マスリナはまず弟に一本を手渡し、次にリオたちにも差し出した。
「ありがたく……いただく!」
リオが一気に飲み干す。喉を流れる瞬間、温かな光が胸に広がり、彼は目を見開いた。
「……体が、軽い……! 傷口がふさがっていく……いや、痛みまでは消えてない。けど……こんな薬、聞いたことがない!」
弓使いの少女も恐る恐る飲み、驚きの声を漏らす。
「すごい……! さっきまで足が鉛みたいに重かったのに、ちゃんと力が入る……走れる、でも……完全じゃなくて、ちょっと痺れが残ってる……」
魔導士も瓶を握りしめ、震える声で言う。
「俺は王都で高価なポーションを飲んだことがあるけど……これは比べ物にならない。癒える速度が異常だ……まるで、体そのものを書き換えているみたいだ……」
マスリナは穏やかに微笑む。
「まだ試作段階です。無理をすれば逆に反動が出るかもしれません。でも、森を抜けるくらいなら大丈夫」
その言葉に、皆の顔に再び希望が灯る。
リオたちは思わず彼女を仰ぎ見た。まるで女神が舞い降りたかのように――だが、同時に胸の奥に微かな畏れを覚えながら。
その横でハヤトは姉を見つめていた。
(……やっぱり姉ちゃんはすごい。俺はまだ暴走を抑えられないけど……姉ちゃんの力は、誰かを傷つけるんじゃなく、救える力なんだ)
そう思った瞬間、ハヤトの胸にふつふつと新たな決意が芽生えた。
「……よし、これなら町まで歩ける。みんな、行こう!」
リオが剣を握り直し、真っ直ぐに前を見据えた。
ハヤトも静かにうなずく。ここに留まれば、再び魔物が襲いかかるかもしれない。歩みを止める理由は、もうどこにもなかった。
異様なまでの回復薬の効果に驚きつつも、彼らは互いを支え合いながら森を進む。さっきまでの競争心は影を潜め、今はただ、死線を共にくぐり抜けた仲間としての絆だけが残っていた。
やがて木々の隙間から、夕陽に染まる町の屋根が見える。
――ギルドへの報告が待っている。だがそれ以上に、今日得た経験が、彼らを次の試練へと導くのだった。




