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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
13/27

血の抱擁

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 ハヤトの放つ光はますます強くなり、森全体を焼き尽くさんばかりに膨れ上がっていた。

 リーダーを守ろうと群がるゴブリンたちは次々に消し飛び、もはや敵よりも、味方の冒険者たちが光に巻き込まれる危険の方が大きい。


 「ハヤト……!」

 マスリナは弟の姿を見据える。


 父と母から授かった奇跡の力――調律。

 しかしそれは、未熟なハヤトには制御できない。理性を食い破り、ただ破壊の衝動だけを残す化け物と化してしまう。


 「……止められるのは、私しかいない」


 彼女の脳裏に母が言っていた言葉がよみがえる。

 “血の繋がりこそが、絆の繋がりこそ奇跡の唯一の錨になる”――と。


 マスリナは決意した。

 まだ癒えていない肩の傷口が疼く。しかし構っている暇はない。


 「ハヤト!」

 彼女は光の奔流へと踏み込んだ。


 灼熱のような魔力の波に、肌が焼ける。

 押し返されそうになるが、それでも一歩、また一歩と近づいていく。


 「姉ちゃん……? 近づくな……俺は……!」

 ハヤトの声が一瞬だけ混じった。しかしすぐに濁り、再び獣の唸りに変わる。


 「大丈夫。私がいるから」


 マスリナは震える腕で弟を抱きしめた。

 その瞬間、彼女の傷口からにじんだ血が、ハヤトの光に触れた。


 ――カッ。


 耳をつんざく轟音とともに、奔流が一気にしぼんだ。

 暴走するDNAの調律が、姉の血によって再び整えられていく。


 「……あ……れ……?」

 ハヤトの瞳の赤が消え、黄金の輝きが静かに収束していった。

 震える声で、彼はようやく自分を取り戻した。


 「姉ちゃん……俺、また……」

 「もういいの。戻ってきてくれた。それだけで十分」

 マスリナの声は優しかった。


 ◇


 静寂が訪れる。

 しかし、まだ一匹だけ残っていた。


 ゴブリンリーダー。

 瀕死の体を引きずりながらも、その目には執念が宿っている。


 「ギ……ギイイッ!」

 最後の力で棍棒を振り上げる。標的は、血を流し弟を抱くマスリナ。


 「やらせるかッ!」

 今度は迷いなく、ハヤトが立ち上がった。


 光はもう暴走していない。

 調律によって強化された肉体と魔力、その一瞬の輝きをすべて拳に込める。


 「うおおおおおッ!!!」


 轟音とともに振り下ろした拳が、ゴブリンリーダーの胸を貫いた。

 巨体が後ろへ吹き飛び、地に崩れ落ちる。二度と動くことはなかった。


 ◇


 荒い呼吸の中、ハヤトはゆっくりと姉を振り返る。

 「……俺、怖かった。自分が自分じゃなくなるみたいで」

 「でも、あなたは帰ってきた。だから大丈夫」


 マスリナの笑みは、どこか母に似ていた。

 その笑顔を見て、ハヤトはようやく膝をつき、力尽きたように倒れ込んだ。


 光の余韻だけが、静かに森を照らしていた。

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