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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
12/27

暴走の兆し

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 光に包まれたハヤトの体から、圧倒的な魔力があふれ出した。

 その輝きは夜の森を白昼のように照らし出し、近くにいたゴブリンたちが思わず身を引くほどだった。


 「これが……弟の力……?」

 マスリナは息を呑んだ。


 ――調律。


父から授かった魔法学の才、母から受け継いだ魔法薬学の血脈。ハヤトの身体は、それら二つの力を意識することなく溶け合わせていた。細胞ひとつひとつが自らの意思を持つかのように、瞬時に“最適な形”へと変化し、限界を超えて調整されていく。


 本来なら、遺伝子の限界は長い年月をかけ、成長や修練を通じて徐々に突破されるもの。しかし彼の身体は、遺伝子そのものを自在に書き換え、瞬間にして可能性の全てを引き出してしまう――まさに奇跡の技、神秘と呼ぶにふさわしい能力だった。


 その力は、制御の糸がかすかに緩めば、容易に暴走する危うさを孕む。光と熱、そして暴発寸前の生命力が混ざり合い、今まさに彼の中で未知の領域が開かれようとしていた。

 だが、代償は重い。

 少しでも制御を誤れば、遺伝子の調整は狂い、理性をも削り取る。

 “諸刃の刃”――それがハヤトの力の正体だった。


 ◇


 「おおおおおッ!!!」

 咆哮とともに、ハヤトが突き進む。


 ゴブリンリーダーが大剣を振り下ろす。鈍い鉄の刃が空気を裂くが、ハヤトは光の残像を残してかわした。

 次の瞬間、拳を叩き込む。


 「ガアアアッ!」

 鋼のような肉体を誇るリーダーが、その一撃で数歩も後退した。土煙が舞い上がる。


 「なんて力……!」

 リオが思わず声を漏らす。仲間を守る盾となるべき自分が、ただ見守るしかできない。


 さらにハヤトの魔力は拡散し、周囲の小ゴブリンを弾き飛ばしていく。光の奔流に晒された敵は次々と灰となり、森の地面に転がった。


 その光景は、神々しさすら漂っていた。


 ――だが。


 「ハヤト……やめて!」

 マスリナの声が震える。


 弟の目が、黄金の輝きから次第に赤みを帯びていた。

 呼吸は荒く、握った拳は自分の血がにじむほど強く食い込んでいる。


 「もっと……壊せる……まだだ……!」

 低く唸る声は、もはやハヤト自身のものとは思えなかった。


 「違う……これじゃ弟じゃない……!」

 マスリナは必死に叫ぶが、光の奔流は止まらない。


 ハヤトの力は、仲間を守る盾から、すべてを薙ぎ払う刃へと変わりつつあった。


 「やばいぞ……このままじゃ、こいつ自身が――!」

 リオが剣を構える。しかし敵ではなく、仲間であるはずの少年に刃を向ける覚悟を見せていた。


 ゴブリンリーダーは膝をつきながらも、まだ息絶えてはいない。だがその存在すら、今のハヤトにとっては視界の端に過ぎない。


 ――光の暴走。


 それは仲間を救う希望であると同時に、彼らを飲み込む絶望の幕開けだった。


 「ハヤト……! 戻ってきて!」

 マスリナが震える手で弟の名を叫ぶ。


 果たして彼の心は、光に呑まれるのか。

 それとも――。


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