暴走の兆し
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
光に包まれたハヤトの体から、圧倒的な魔力があふれ出した。
その輝きは夜の森を白昼のように照らし出し、近くにいたゴブリンたちが思わず身を引くほどだった。
「これが……弟の力……?」
マスリナは息を呑んだ。
――調律。
父から授かった魔法学の才、母から受け継いだ魔法薬学の血脈。ハヤトの身体は、それら二つの力を意識することなく溶け合わせていた。細胞ひとつひとつが自らの意思を持つかのように、瞬時に“最適な形”へと変化し、限界を超えて調整されていく。
本来なら、遺伝子の限界は長い年月をかけ、成長や修練を通じて徐々に突破されるもの。しかし彼の身体は、遺伝子そのものを自在に書き換え、瞬間にして可能性の全てを引き出してしまう――まさに奇跡の技、神秘と呼ぶにふさわしい能力だった。
その力は、制御の糸がかすかに緩めば、容易に暴走する危うさを孕む。光と熱、そして暴発寸前の生命力が混ざり合い、今まさに彼の中で未知の領域が開かれようとしていた。
だが、代償は重い。
少しでも制御を誤れば、遺伝子の調整は狂い、理性をも削り取る。
“諸刃の刃”――それがハヤトの力の正体だった。
◇
「おおおおおッ!!!」
咆哮とともに、ハヤトが突き進む。
ゴブリンリーダーが大剣を振り下ろす。鈍い鉄の刃が空気を裂くが、ハヤトは光の残像を残してかわした。
次の瞬間、拳を叩き込む。
「ガアアアッ!」
鋼のような肉体を誇るリーダーが、その一撃で数歩も後退した。土煙が舞い上がる。
「なんて力……!」
リオが思わず声を漏らす。仲間を守る盾となるべき自分が、ただ見守るしかできない。
さらにハヤトの魔力は拡散し、周囲の小ゴブリンを弾き飛ばしていく。光の奔流に晒された敵は次々と灰となり、森の地面に転がった。
その光景は、神々しさすら漂っていた。
――だが。
「ハヤト……やめて!」
マスリナの声が震える。
弟の目が、黄金の輝きから次第に赤みを帯びていた。
呼吸は荒く、握った拳は自分の血がにじむほど強く食い込んでいる。
「もっと……壊せる……まだだ……!」
低く唸る声は、もはやハヤト自身のものとは思えなかった。
「違う……これじゃ弟じゃない……!」
マスリナは必死に叫ぶが、光の奔流は止まらない。
ハヤトの力は、仲間を守る盾から、すべてを薙ぎ払う刃へと変わりつつあった。
「やばいぞ……このままじゃ、こいつ自身が――!」
リオが剣を構える。しかし敵ではなく、仲間であるはずの少年に刃を向ける覚悟を見せていた。
ゴブリンリーダーは膝をつきながらも、まだ息絶えてはいない。だがその存在すら、今のハヤトにとっては視界の端に過ぎない。
――光の暴走。
それは仲間を救う希望であると同時に、彼らを飲み込む絶望の幕開けだった。
「ハヤト……! 戻ってきて!」
マスリナが震える手で弟の名を叫ぶ。
果たして彼の心は、光に呑まれるのか。
それとも――。




