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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
11/27

追い詰められた鼓動

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 ゴブリンリーダーが咆哮を上げた。

 その声に応じるように、周囲のゴブリンたちが一斉に動きを揃える。さっきまで散発的だった攻撃が、まるで軍勢のような規律を帯び始めた。


 「くっ……なんだこいつら、さっきと全然違う!」

 リオが剣を振るい、迫る一体を切り伏せる。しかし次の瞬間、左右から二匹が挟み込む。

 「リオ、避けて!」

 弓を引いていた少女が叫ぶが、彼女自身も背後から襲われて矢を放つ余裕を失う。短剣を抜いて必死に応戦するが、防戦一方だ。


 リオのパーティーの最後の一人、防御魔法を操る少年もまた悲鳴を上げる。

 「盾が……! 数が多すぎる!」

 その声に焦りが滲む。


 ――ゴブリンたちはもはや群れではない。統率された兵団だ。


 ◇


 一方、ハヤトとマスリナも苦境に立たされていた。


 「はあっ!」

 ハヤトが短剣で一匹を突き倒すが、その背後からすぐに二匹が飛びかかる。

一手二手と次第におくれる。


 「ハヤト!」

 マスリナが魔弾を放ち、かろうじて弟を守る。しかし彼女の顔は青ざめていた。


 肩の包帯。完全に癒えたはずの傷――その痛みが蘇るのを恐れているのか、彼女の動きは精彩を欠いていた。

 「(また、あの時みたいに……動けなくなったら……)」

 脳裏に浮かぶのは、オオカミとの戦いで自分が倒れ、弟を危険に晒した光景。

同じことが起きると思うと足がすくむ。


 その迷いが、攻撃を一瞬遅らせる。

 「うっ!」

 ゴブリンの棍棒が彼女の腕をかすめた。再び赤い血が滲む。


 「姉ちゃん!」

 ハヤトが駆け寄ろうとするが、前に立ちはだかる敵が行く手を遮る。


 ――守りたい。だが、力が足りない。


 歯を食いしばりながら戦うハヤトの耳に、再びリーダーの咆哮が轟く。

 その瞬間、周囲のゴブリンたちが一斉に動きを変えた。

 狙いは――リオの仲間。特に弓を持つ少女。


 「しまっ――」

 リオが駆けるが遅い。少女の背に、巨大なゴブリンが刃を振り下ろそうとしていた。


 「やめろぉぉぉ!!!」

 思わずハヤトの喉から叫びが迸った。


 次の瞬間、彼の体を光が包み込む。


 鼓動が速くなる。胸の奥で破裂しそうな脈動が暴れ、血は沸騰し、骨の髄まで灼けるような震えが走る。

 視界がぐにゃりと歪み、木々も獣も、まるで紙細工のように脆く見えた。


 「これは……!」

 マスリナが息を呑む。弟の身体から噴き出す光は、ただの魔力ではなかった。空気を焼き、森の匂いを焦がし、まるで異界の裂け目がここに口を開けているかのようだった。


 ハヤトの全身に浮かぶ血管が、黄金の炎で線を描いたように輝く。

 熱い。だがそれは力の歓喜であり、痛みではなかった。

 ――もっと。もっと放て。

 耳の奥で、誰のものでもない声が囁く。


 「僕は……守るんだ!」


 叫んだ瞬間、瞳が金色に爆ぜた。だがその光には、慈悲だけではなく狂気が混じっていた。

 ゴブリンたちは怯え、吠え声を上げる。だが少年の眼差しは敵だけでなく、傍らの姉さえ射抜くほどの烈しさを帯びていた。


そして、弓を持つ少女を狙うゴブリンを瞬殺する。

ハヤトの尋常じゃない狂気を目の前にして


 「ハヤト……やめて!」

 マスリナの声が震える。弟を止めなければ――だが近寄れば自分さえ呑み込まれる気がした。


 光はさらに膨張し、夜を裂く雷鳴のように轟いた。

 その中心にいるのは確かに弟。けれど、今この瞬間だけは、まるで別の存在にすり替わったかのようだった。


 ――遺伝子の調律が、再び始まろうとしていた。


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