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遺伝子の調律  作者: さんご
1章 火の竜王の救済
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双才の魔女-不出来な弟

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

 ハヤトが生まれた家は、小さな村に根を張る穏やかな魔法使いの家系だった。父は「魔法学」を極めた術師、母は「魔法薬学」の名手。二人の血を引いた子供たちが、やがて村の希望となることは誰もが信じて疑わなかった。


 姉のマスリナは、その期待に応えるように幼い頃から才能を輝かせた。父の魔法学を自在に操り、母の魔法薬学もまた難なく身につける。二つの系譜を等しく受け継ぐ稀代の存在。村人からは「双才の魔女」とまで呼ばれ、羨望と畏敬の眼差しを一身に浴びた。


 しかし、ハヤトは違った。父の術だけを受け継ぎ、母の領域にはまるで触れることができない。村の者たちも、家族ですらも、いつしか姉と彼を並べて語るようになった。比べられることが日常であり、その度に胸の奥に刺のような痛みが広がる。


 ――どうして、自分は「半分」なのだろう。


 そんな問いを抱きながらも、幼い彼には答えを見つけるすべもなく、ただ無力感と向き合う日々が続いた。


 ある夏の夕暮れ。突如、地響きと共に村に影が迫った。山裾から押し寄せるのは、巨人族オーガの群れだった。獣の咆哮にも似た怒号が夜を裂き、火の矢が空を焦がす。


 父は魔法学の陣を張り、母は薬学で調合した爆薬を投げ放った。二人は最後まで村を守ろうと抗った。しかし、数に勝るオーガの猛威は容赦なく、防壁は一瞬で崩れた。


 炎の中で、ハヤトは母の叫びを聞いた。

「マスリナ! 弟を連れて……逃げなさい!」


 次の瞬間、轟音と共に大地が揺れ、視界は紅蓮に呑まれた。振り返ったとき、両親の姿はもうそこになかった。


 「お父さん……お母さん……!」

 叫ぶハヤトの手を、姉が強く掴んだ。


 「立って! 生き残らなきゃ!」


 涙に濡れた顔で、それでもマスリナの瞳は決して揺らがなかった。彼女は弟を背に庇い、森の暗がりへと走る。背後では、オーガの咆哮と、村の崩壊する音が遠雷のように響き続けていた。


 森の中を必死に駆ける二人。枝が肌を裂き、泥が足を取る。だが立ち止まれば死が追い付くことを、子供である彼らも悟っていた。


 息が切れ、視界が霞む頃、ようやく追手の気配が薄れた。大木の根元に身を寄せ、二人は互いの体温を確かめ合うように肩を寄せた。


 「……お姉ちゃん、僕……」

 嗚咽混じりの声で、ハヤトはやっと言葉を絞り出した。

 「僕は、何もできなかった」


 その告白に、マスリナは首を振った。

 「違う。生き残ること、それが今できる最大の力だよ」


 彼女の声は震えていた。それでも、その響きは不思議と心の奥に届いた。


 ――生き残る。それは、弱いと感じていた自分に残された唯一の使命。


 ハヤトは唇を噛み、両親の最期を脳裏に刻みつける。炎に包まれた村の光景は、彼を押し潰す重荷であると同時に、これからを歩むための原点となった。


 夜風が森を渡り、二人の頬を撫でる。その中で、姉と弟はただ静かに誓い合った。

 ――必ず生き延びる。たとえ運命に弄ばれようとも、失ったものの意味を無駄にしないために。


 こうして、村を焼かれ、両親を喪った姉弟の逃亡の旅が始まった。まだ幼い彼らの前に、過酷で長い運命の調律が待ち受けていることを、この時はまだ知らなかった。


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