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転校生は名探偵(自称)  作者: shoko
第二章:七不思議・音楽室の幽霊
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第二章:七不思議・音楽室の幽霊 2

 夜――。


 僕たちは、予定通りに学校へ戻ってきた。


 「張り込み」といっても、さすがに学校に無断で侵入するわけにはいかない。だから僕たちは、放課後すぐには帰らず、校舎裏にある旧倉庫の影に隠れて、人気が完全に引いたのを見計らってから音楽室へ向かったのだった。


「不法侵入で補導されたら、どうすんだよ……」


「そうならないように、音は立てないことね。これは探偵の基本よ」


 かすみは靴をそっと脱いで、スリッパで廊下を滑るように進んでいく。僕も仕方なくそのあとをついていくが、内心では心臓の音が鳴りっぱなしだった。


 三階の音楽室にたどり着くころには、校舎全体がまるで廃墟のように静まり返っていた。


 誰もいない、でも何かが“いる”ような気配。


 その張りつめた空気の中、かすみは音楽室の前で立ち止まる。


「ドアは……閉まってるけど、鍵はかかってない。昼と同じね」


「本当に入るのか?」


「もちろん」


 ドアをそっと押し開けると、かすかに冷たい空気が流れ込んできた。


 夜の音楽室は、昼間よりさらに不気味だ。照明は点けられない。代わりに、かすみが持ってきた小さな懐中電灯の光だけが、机と椅子の間をゆっくりと照らす。


「そこで待ってて。私はピアノの周辺を確認するわ」


 かすみは静かに、ピアノのほうへと近づいていく。


 僕は部屋の隅、視界の広い場所に身を潜めた。時間は午後七時過ぎ。もしも“噂の音”が本当に鳴るのだとしたら、それはこのあとすぐ――。


 ──カタン。


 小さな物音に、僕は思わず息を呑んだ。


「……助手くん?」


 かすみが小声で囁く。


「今、何か聞こえたわよね?」


 僕はうなずく。


 音は、ピアノの方向とは違う。音楽準備室――ピアノの奥にある、小さな物置のような空間の中から聞こえた気がした。


 鍵は閉まっていたはずだ。昼間、僕たちが確認したときは確かにそうだった。


「まさか、中に誰か……?」


 その瞬間だった。


 ──ポロロン。


 ピアノの鍵盤が、ひとりでに鳴った。


 澄んだ、けれど明らかに意図を持った音。機械的ではない、誰かの指が触れたような。


 かすみは迷いなく、ピアノの横に走り寄る。


 しかしそこには、誰もいなかった。


「いない……けど、音が確かに鳴ったわ」


 僕もピアノのそばに駆け寄る。鍵盤に手を触れてみたが、まだほんの少しだけ、かすかに振動が残っている気がした。


「ペダルの跡……やっぱり、今日も付いてる。さっきまではなかったのに」


「じゃあ、今この部屋に、“誰かがいた”ってことか?」


 そのとき、物置部屋の奥から――またしても、わずかな物音。


 ガタ……ガサ……。


 今度は、はっきりと聞こえた。間違いない。準備室の中に、誰かがいる。


 僕と、かすみは顔を見合わせる。


「行くわよ」


 かすみが手にした懐中電灯の光が、扉の隙間を照らす。準備室の扉には鍵がかかっていない。誰かが、内側から開けたのか?


 ゆっくりと、かすみがノブに手をかける。


 ──ギィ……。


 扉がきしむ音とともに、光が部屋の中を照らし出す。


 そこにいたのは――


「……えっ?」


 僕は思わず声を漏らしていた。


 そこにいたのは、人影でも幽霊でもなかった。


 折りたたまれた譜面台の陰に、小さな人影――中学生くらいの少年が、すっかり縮こまって座り込んでいた。

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