第一章:消えたプリント 2
「まずは久保田くんに直接話を聞こう。彼、どこにいるんだ?」
「保健室よ。授業中に騒いで頭痛がするとか言い出して、保健の先生があっという間に連れて行ったみたい」
「頭痛……? そんなに大げさなことなのか?」
「だから事件なのよ。怪我も病気もないのに、保健室って怪しすぎるわ」
そう言いながら、九条はすでに立ち上がっていた。
「助手、急いで。私の名探偵としての直感がピンときたわ」
僕は仕方なく彼女の後を追った。
廊下はいつもの昼休みの喧騒が響いている。誰もがそれぞれの過ごし方をしている中で、九条だけはひときわ目立つほど真剣な表情だった。
保健室の前に着くと、九条は軽くノックし、中に声をかけた。
「久保田くん、話を聞かせて」
中からは、少しハスキーな声で「はい、どうぞ」と返事があった。
部屋の中に入ると、久保田くんはベッドに座り、額に冷たいタオルをあてている。顔色は少し青ざめて見えたが、僕には大げさに見えた。
「頭痛はどう? 大丈夫か?」
「うーん……まあ、ちょっと痛いけど、たぶん気のせいです」
久保田くんは、どこかしらプリントのことが気になっている様子だった。
「プリントのことだけど、どんな状況でなくなったの?」
「授業が始まる前に机の中を確認したら、ないんです。ロッカーも探したけど、まったく見つからなくて」
「誰か怪しい人は?」
「わかりません……」
九条は興味深そうに話を聞いている。
「じゃあ、最後にプリントを見たのはいつ?」
「昨日の放課後、教室で確認しました。確かにあったんです」
「ふむ……それは重要だ」
僕は考え込んだ。
「……なあ、九条。保健室でこんな話をしてるけど、何か違和感を感じないか?」
「違和感?」
「そう、なんで保健室で頭痛なんて言い出したんだ? 誰かに強要されたか、あるいは……」
その瞬間、保健室の窓の外で小さな物音がした。
僕たちは顔を見合わせ、そっと窓に近づいた。
外には誰もいなかったが、植え込みのあたりに何か黒い影が動いたように見えた。
「……まさか」
九条はすでに決意を固めた表情だった。
「これはただのプリント紛失じゃないわ。何かもっと大きな陰謀が動いてる」
僕はただ「……ああ」としか返せなかった。
名探偵助手としての一日が、まだまだ終わる気配はなかった。