第一章:消えたプリント 1
中間テストが近づいてきたある昼休み。僕――神野蓮は、教室の隅で持参したおにぎりを食べながら、窓の外に広がる曇り空をぼんやりと眺めていた。春の陽気はすでに遠のき、五月の空気は少しずつ湿気を含んでいる。次の数学の授業を考えると、憂鬱さがじわじわと湧いてくる。
「助手くん、ひとつ、重大な事件よ」
その声は、またしても唐突だった。
僕の前に現れたのは、転校してきたばかりの九条かすみ。彼女は僕の机に肘をつけて、やけに真剣な顔をしている。
「……昼飯くらい、静かに食べさせてくれない?」
「そうもいかないわ。これは由々しき事態よ。聞いた? 久保田くんがプリントを“盗まれた”って騒いでるの」
「……盗まれたって何?」
「中間対策の数学プリント。先生が出した重要課題らしいんだけど、彼のだけ無くなってて……面白いでしょ?」
「いや、面白くはないよ。単に失くしただけじゃ……」
「いいえ、ここが事件なの。机の中にもロッカーにもなかった。でも、周囲の生徒は誰も“持っていった”なんて言ってない。つまり、密室消失事件!」
九条は、嬉々として言葉を重ねる。
「これは明らかに、第三者の介入があった証拠よ」
「だからって、僕に言うなよ」
「助手でしょ、君」
「勝手に任命しただけだろ……」
こうしてまた、彼女の“探偵活動”に巻き込まれる羽目になったのだった。




