第四章:五年前の写真 2
翌日の昼休み。僕とかすみは、図書室の奥にある管理用の書庫にいた。
「ここって、入ってよかったのか?」
「生徒会に入ってる田中さんに鍵を借りておいたの。助手くんが卒業アルバムを見たいって言ったら、『またか』って顔されたけどね」
「またか……?」
「以前、“七不思議”の調査で音楽室の記録を確認したときよ。あの子、忍耐力あるわ」
それはともかく、図書室の管理用棚には、過去数十年分の卒業アルバムと学校記録が整然と並べられていた。
かすみはすでに、「五年前」の卒業アルバムを取り出し、表紙をめくっていた。
「これが、三年二組の集合写真。ほら、これ」
かすみが指差した写真は、昨日僕が見つけたものとまったく同じだった。
ただし、モノクロではなくフルカラー。そしてそこには、生徒たちのフルネームが記されている。
「……いた」
僕が見覚えのある顔。自分に似ていると感じた少年の名前は――「神野優」。
「……神野?」
自分の名字とまったく同じだった。
思わず声が漏れる。
「兄弟?」
「そんな話、うちの親からは一度も聞いたことないけど……」
僕は戸惑いながらも、名前の横に書かれたプロフィールに目を通す。
神野 優
美術部所属。将来の夢:建築家。
「美術部……それで、写真が美術準備室に置かれてたのか」
かすみは表情を変えず、静かにページをめくる。
「もう一人、気になる人がいるわ」
「え?」
「この写真を見て。右奥、少しピントがぼやけてるけど……一人だけ、顔を逸らしてる生徒がいる」
確かに、他の生徒が笑っている中で、その人物だけが無表情で、視線をどこか遠くに向けていた。
「名前は……“立花ゆり”」
その瞬間、僕はハッとした。
「待って、それって――」
「そう。今の保健室の先生よ」
僕は知らず知らずのうちに、息を呑んでいた。
「つまり、五年前の卒業生が、今この学校で教師として働いてるってこと?」
「ええ。そして、彼女もまた、この“神野優”と同じクラスだった。……偶然にしては出来すぎてるわ」
かすみは封筒の裏側を取り出し、薄く浮かび上がった折り目の筋に指を滑らせた。
「助手くん。これ、単なる懐かしさから出された写真じゃない。誰かが“意図的に”見せたのよ」
僕は、昨日と同じ疑問を繰り返す。
「でも、なんで“僕”に?」
そのとき、かすみがぽつりと口にした。
「もしかして、君自身がこの“優”に似ていることを、知ってる人がいるのかもね」
「え……?」
「外見だけじゃなくて。雰囲気とか、目の色とか。血縁者なら、気づくことがある」
血縁者――。
今まで意識したこともなかった。
自分に“兄”がいた可能性なんて、考えたこともない。
かすみは、アルバムをそっと閉じた。
「……保健室、行ってみましょうか。立花先生に、少しだけ話を聞いてみる」
「……ああ。行こう」
たった一枚の写真が、過去の扉を少しだけ開き始めていた。




