第二章:七不思議・音楽室の幽霊 5
図書室の入り口では、ひとりの女子生徒が小さな声で図書委員に何かを訴えていた。
「ほんとに、借りた覚えがないんです……。でも、貸出記録には自分の名前があって……」
かすみが足を止める。
「ね、助手くん。聞いた?」
「ああ。借りた覚えがないのに、返却された本がある……ってやつか?」
「ふふ、それだけじゃないと思うのよね。記録に何か、仕掛けがあるのかも」
「記録って……貸出カード?」
「図書室にはまだアナログの貸出記録があるって、この前言ってたじゃない。記入式の紙のやつ」
「ああ、そういやそうだったな」
「つまり、手書きなら“改ざん”の余地もあるってこと」
にやりと笑うかすみの横顔に、僕はつい、ため息をついた。
「お前、もしかして……最初から狙ってた?」
「幽霊事件の調査中、図書室のことも耳にしたのよ。ついでに観察してただけ」
それを“ついで”というのかはさておき、彼女の目がまた輝きを帯びていることは間違いなかった。
かすみの“探偵活動”は、たぶん終わることがない。
なぜなら、彼女自身が“謎”を求めて動いているのだから。
そしてその渦に、いつも巻き込まれるのが僕――神野蓮だ。
図書室の扉が静かに開かれた。かすみが一歩、足を踏み入れる。
僕もそのあとを追う。
棚の隙間から差し込む光と、静謐な空気。
その中に、まだ誰も気づいていない“嘘”が、ひっそりと紛れ込んでいる。
それはたぶん、ちょっとした勘違いか、あるいは悪戯のように見えるかもしれない。
でも――
「助手くん、図書室にはね、嘘がよく似合うのよ」
かすみのその言葉に、僕は思わず問い返す。
「どうして?」
「だって本って、真実も書かれてるけど、嘘もたくさん詰まってるでしょう? 嘘が“うまくできてる”ほど、物語は面白い。……違う?」
正解は出なかった。
けれどそのとき、僕の中に芽生えたある予感――
この“嘘”は、ただの嘘じゃない。
かすみが追い続けている“何か”へと、きっと繋がっていく。
そう思えてならなかった。
✦次章予告(第三章:図書室にいた嘘つき)
「貸してない本が、返ってきた?」
謎の貸出記録、曖昧な記憶、そして一冊の古い文庫本――。
図書室の静けさのなかで紡がれる、小さな嘘と、そこに宿る忘れられた想い。
嘘をついたのは誰? そして、それは何のために?




