ハンス、ダンジョン生活を始める
「落ち着け、少なくともこの階にいる限り俺は無敵なんだ。 じっくり考えるか」
起こっちまったもんは仕方がない。 まずはどうやって生き抜くかを最優先に考える。
幸いこの階にはいくらかの小部屋があり、地上からの冷気も遮断されてるため、素っ裸で寝ても風邪を引かないくらいには暖かかった。
「まぁ考えるにしても腹が減りゃなにも浮かばないわな。 まずは非常食を……あれ、ない、ないのか……?」
なんてこった、この3日で知らない内に全部食っちまったらしい。
魔物には無敵でも空腹ばかりはどうにもならんぞ。
「冗談じゃないっ。 俺はここで餓死してデビルバットやリザードウォリアーのエサになるのか?」
ん? 待てよ、リザードウォリアー……原型はトカゲ、トカゲは確か鶏肉のように美味いんだったな……やってみっか。
「なにもしねぇで食われるよりはマシか」
俺は魔物の徘徊する区画に出て数匹のリザードウォリアーに掴みかかると奴らはウルフと同じ様にショック死をした。
「鎧は引っ剥がしてっと……1匹だけにするか」
流石に3匹は食べきれない。 余して腐らすと病原菌の温床にもなるから置いていくほうが吉だ。
そしてどうにか火を起こし、丸裸のトカゲをさばいて焼いてみる。
やはり鶏肉のようにいい匂いだ、頂くとしよう。
「ん? これはっ」
美味い、美味すぎるっ! これが普段食べなれてるのと同じトカゲなのか?
あまりの旨さに手が止まらない。 気がついたら俺はリザード1匹を丸々平らげてしまった。
「ふぅ、ごちそうさま。 マジで美味かったな」
これで酒もあれば言うことないがここはダンジョン、そんな贅沢も言ってられない。
「とりあえず、他の魔物も狩ってみるか」
ダンジョンはやはり広く、ヒトダマに首なしの騎士にアンデッドサムライが出てきた。
もちろんこの階で最強の俺はどんな魔物も難なく倒す。 ここまでやるともはや戦闘というよりは作業だ。
「こんなに呆気ないと狩りというより芝刈りをしてるみたいだ……ん?」
足元を見るとギラリと光る刃先が眼に入る。 これは……。
「ムラマサ……だよな? ボッタクリヤ商店の売り物がなんでここに」
とりあえず回収しておくか。 何かの役には立つかもしれない。
「この鎧もいいな、とりあえず今日は休もう」
通り道にやけに綺麗な水路を見かけ、鎧を洗うことにした。
ついでに身体も洗うか、さすがに3日間清めないのはさすがにきつい。
一通り水浴びを終えた俺は小部屋にて休むことにした。
明日はどう過ごすか、そんなことを考えながら床に就く俺はまだ想像だにしてなかった。 まさかここで20年間も商人をすることになるとは。