表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

第9話 お姉さんは強がりちゃん

「──っ!」


 目を覚ますと、下着は汗で湿っていた。

 瞼には、涙が透明な砂となってこびりついている。

 碧斗はすぐに「自分は悪夢を見ていた」と気づく。


 あの夢、東京に来てからは見てなかったのにな……。 どうして思い出したんだろ。


 遠い昔の、楽しくて悲しい思い出。

 あの頃は毎日呼んでいたあの子の名前。 時の流れと共に風化し、いつしか記憶から消えてしまっていた。


 頭の中にモヤがかかっているが、急に起き上がり強制的に吹き飛ばす。 そして学校に向かう支度を始めた。


 ◆


 学校から碧斗の自宅の間にある公園に、由佳里はいた。 雨上がり、濡れたブランコに腰を下ろしている。

 頭には、木から雨の雫が一滴一滴垂れている。


 話しかけるか迷った末、碧斗は「白石先輩、濡れてますよ」と言って由佳里の隣のブランコに腰を下ろす。


「あ……」


 声をかけられるまで碧斗の存在に気づかなかったからか、頭に雨の雫が垂れていることに気づかなかったからか、驚いたような表情をしている。

 すぐに以前会った時のような優しい笑を浮かべる。


「こんにちは。 碧斗くん」


「えと、こんにちは」


 いきなり雰囲気が変わったため、碧斗はなんと返せばいいのか、戸惑ってしまう。


「白石先輩」


「な〜に〜?」


 真面目な顔で名を呼ぶ碧斗に、由佳里はいつも通りの表情を浮かべる。


「俺、白石先輩のその表情嫌いです。 昔の俺にそっくりなんで」


「え……?」


 いきなり「嫌い」と言われ、由佳里の表情は崩れる。


「白石先輩、なにか辛いことがあるなら話してください。 もちろん話したくないことは話さなくてもいいです。 でも話したら楽になることもきっとあるはずです」


「……」


 由佳里は地面をジッと見つめて黙り込む。


「やっぱり今のな──」


「私の──」


 碧斗が先程の言葉を取り消そうとしたのと同時に、由佳里は口を開く。


「──私の両親は私が中学に上がる時に離婚したの。 原因はお父さんが浮気をしたから」


「えっ!?」


 想像よりも重い話だったため、碧斗は間抜けな声を出してしまう。


「私はお父さんのことを元々よく思っていなかったから、その事は別にどうでもいいの。 でもね、先月くらいから毎日家に知らない男の人がいるの……」


「それって……」


「うん。 碧斗くんの思っている通りだよ」


 どうやら由佳里の家は相当訳アリのようだ。


「それでね──」


 長かったので簡単にして伝えよう。

 由佳里の家に来る知らない男は、毎日異なっているらしい。 由佳里の母親は若く、美しいため、たくさんの男が寄ってくるらしい。

 それに嫌気がさした由佳里は、今朝母親と口喧嘩をしてしまい、家に帰りにくくなったという。


「俺が家までついていきましょうか?」


「いや、いいよ……!」


 由佳里は両手を胸の前で振って遠慮をする。


「一人で帰っても心細いですよね? 『赤信号みんなで渡れば怖くない』って言いますからね。 それに家に帰れないなら俺の家に泊まってもいいですよ」


「と、泊まり!?」


 いきなりものすごいことを口にする碧斗に、由佳里は「あわわ」と焦ったような表情を浮かべる。

 その後、「なんもしませんよ?」と真面目に言われ、由佳里の表情はすぐにいつも通りに戻る。


 ◆


 結局由佳里が引き、二人で由佳里宅に向かうこととなる。


 その道中、「カッコつけなければよかった」と碧斗は後悔する。

 女子の家なんて、昔遊んでいた《《あの子》》以来だ。 正直心臓がバクバクだが、必死にポーカーフェイスを貫く。


 由佳里宅は高級マンションの一室で、部屋の前に着くと碧斗は少し引いた場所にいた。


「ただいま……」


 鞄から鍵を取り出し、由佳里は部屋に入っていく。

 中からは激しく罵倒するような声は聞こえてこない。


 約十分後。 部屋から顔を真っ赤にした由佳里が顔を出す。


「どうだった?」


「お母さんが謝ってくれたの。 だから私も謝れたよ。 私、碧斗くんがいなかったら勇気を出せず、ここに帰ってくることも出来なかったよ。 会って間もないのに、ありがとね」


 由佳里は今日初めて、作り笑いではない自然とでた笑みを見せる。

 それを見て碧斗は安心したのか、「俺のようは済んだようなのだ帰りますねー」とだけ言い、マンションを去った。


 小さくもう一度「ありがと」と言い、由佳里は先程まで碧斗の居た場所を見つめる。


「あおくん、ありがと」


 最後に呟いたこの言葉は、碧斗の耳に届くことはなかった。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたらモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ