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第8話 お姉さんはドジっ子ちゃん

【白石由佳里】について話すとしよう──。


 由佳里は恵まれた体型で、男だけではなく女までも魅了してきた。

 グラビアをしているという根も葉もない噂を立てられているが、その答えは誰も知らない。


 ドジな性格をしているせいか、隣にはいつも風紀委員長がついている。 二人は幼馴染らしく、二人の話す様子は仲睦まじく、見るもの全ての心を浄化するとかしないとか──。


 そんな白石由佳里は個人経営のレストランでバイトをしている。

 モダンなレストランのユニフォームを驚く程に着こなす由佳里は、今年で歴は二年目らしいのだが、厨房の流し台で不協和音が響く──。


「あー! 《《また》》やっちゃった!」


「え、またって白石先輩何回も皿割ってるんですか!?」


 傍から見ると楽しそうではあるが、バイト初日の碧斗は酷く動揺していた。


(白石先輩のせいで俺、初日からクビになるかもしれない……)


「あちゃー、また盛大にやらかしてくれたな」


 音につられ、オーナーが姿を現した。 オーナーは四十代くらいの優しそうな男性だ。

 碧斗はオーナーの、目の下がぴくぴくと動いていることについては触れないでおくことにした。


「オーナーごめんなさい……」


 その場にしゃがみ、由佳里は分かりやすく落ち込む。 その姿にオーナーは「はー」とため息を着くと、由佳里と目線同じ目線になるようにしゃがみ、口を開く。


「まぁ、仕方ないよな。 白石さんがドジっ子ってことはみんな知ってる。 そして、それと同じくらい白石さんが仕事熱心で頑張ってくれてるのも知ってる」


「お、オーナー……!」


「給料から引いとく。 怒らないから安心しろ」


「オーナーぁぁぁ……!!」


 一度は目を輝かした由佳里であったが、すぐに現実を突きつけられ下を向く。 しかし先程まであった重たい空気はなくなっており、碧斗は「これがこのレストランの日常なんだな」と苦笑する。


 ◆


「ふんふーん♪」


 五分もすると由佳里は元気になり、鼻歌を交えて皿を洗っている。 その仕事は早い上に完璧だった。


(オーナーの言ってたことが少しわかる気がする)


 碧斗は横目に短い茶髪を揺らし、仕事に励む由佳里の姿を見てそう思う。 ドジではあるが、この仕事へのやる気は人一倍高い。


「俺も見習わないとだな」


 碧斗の呟きに、由佳里は「どうかした〜?」と聞いてくるが、知らん振りをして目の前に溜まる皿を順調に減らしていった。


 ◆


「やっと終わったぁ〜!」


 由佳里は「う〜ん」と体を伸ばす。 それに伴い大きな果実も動くが、碧斗は慌てて目を逸らす。


「お疲れ様。 橘くん、初日にしては頑張ったね」


 店の扉のかけられたプレートを『OPEN』から『CLOSE』に変えてきたオーナーが、微笑みながら言う。

 どうやら碧斗は仕事ぶりを認めて貰えたようだ。


「ありがとうございます!」


 バイトが始まる前は緊張していた碧斗であったが、先輩達は優しく、明るいのですぐに馴染むことが出来た。


「ところで碧斗くんは、どうしてバイトを始めたの〜?」


 ゆったりとした口調で由佳里が聞く。


「一人暮らしをしてるんですけど仕送りの量が少なすぎて……」


 ここで親に追い出された話をすると気まずい雰囲気になりそうだったので、碧斗は意味が変わってしまわない程度に内容を省いて伝える。

 質問をした由佳里は「偉いね〜」と褒めてくれるが、碧斗はくしゃりと顔を歪める。


(偉い? 俺が? 絶対にありえない。 俺は俺のせいで家を追い出されたんだ。 家族をぐちゃぐちゃにしてな……)


「どうかしたぁ〜?」


 由佳里は意外と周りが見えているらしい。 碧斗の顔を由佳里は心配そうに覗いている。


「ん、あ……! 何もないです」


 適当に誤魔化し、碧斗はユニフォームを脱ぐために更衣室に逃げ込む。


(俺は何をやってるんだ……。 暗い顔はダメだ、俺らしくない)


 いつもはヘラヘラと軟派な男の碧斗であるが、今は少し違う。 暗い表情で下を向いている。

 碧斗が家を追い出されたのは、親と喧嘩したなどという軽いことではない。 第三者を巻き込む事件を犯してしまったのだが本人からすれば、触れてほしくないことだった。



 碧斗は家に帰り軽くご飯を済ませると、少し大きめのソファーで横になった。

 軽く目を瞑っていただけだが、バイトの疲労と緊張のせいか、すぐに深い眠りに落ちた。


 ◆


「──くん! あおくん! 大丈夫?」


 ぱっと目を見開くと、そこには碧斗よりも十センチ近く身長の高い女の子がいた。


「だ、大丈夫……」


 ずっと昔の楽しかった頃の記憶。 碧斗が小学生の頃は毎日のように遊んでいた。

 お互いの家が田舎にあったことから、ある日は服が水でびしょびしょになるまで川で(あゆ)釣り。 またある日は体中泥まみれになるまで山を探検していた。


 服を汚す度に親に叱られたが、当時の碧斗は一夜寝るとけろっと忘れ、また服を汚して帰る。 ということを繰り返していた。



 碧斗が小学六年生に進級する春休み──。

 仲良しの二人にも別れが訪れた。


 いつものように碧斗は小学校のランドセルを家に置き、女の子の家のインターフォンを鳴らした。

 少し間を開けて、中からくぐもった声が聞こえる。

 碧斗はその声を聞いただけで、いつものようにワクワクとした気分が心から溢れ出す。

 玄関の扉が開くと碧斗は弾むような声で言う。


「──ちゃん、今日は何して遊ぶ? 川遊び、山登り、それともゲーム?」


 玄関の扉から顔を出した女の子が、少し寂しそうな表情をしていることに気づかず、碧斗はいつものように色々な提案をする。


「ごめん」


「え……?」


 いつもと違う声色で、碧斗は初めて女の子の様子がおかしいことに気づく。


「私、もうあおくんと会えないの……。 ──と思ってる。 ごめんね、さよなら……」


 そこまで言うと、一度開かれた扉は閉まり、間を開けずに鍵の閉まる音が聞こえた。


 それから碧斗は一度もその女の子と会うことはなかったのだった。

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