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第7話 ツンデレちゃんは『デレ』100%

 彼女が寝盗られてから初めての金曜日──。


 色々と疲れることもあり、碧斗は週末は家でのんびり過ごすため、ホームルームの終わりと同時に早々と帰路に着いた。


 碧斗は電車通生だ。 だから今日も高校の最寄り駅に入る。

 流石都会と言ったところか。 ギリギリ間に合わず電車を逃してしまったが、二、三分もしたらすぐに次の便がホームに入ってくる。


「げッ……!」


 碧斗は電車を見た途端、顔を引き攣らせながら声を発する。 なぜなら電車が満員だったからだ。


(いつもはこの時間、空いているのに……)


 どうやら修学旅行中の中学生が乗っているため、満員のようだ。 どの車両にも生徒がたくさん詰まっている。

 碧斗は目の前のドアから乗り込み、ギリギリ邪魔にならないところでつり革を握る。

 ドアが閉まる寸前に赤い髪のツインテールを揺らす少女が走りながら電車に乗り込んだ。


「あ、先輩」


 その赤髪ツインテールの少女とは、伊集院朝陽であった。


「おぉ、朝陽」


 碧斗は軽く返すとそこで会話は終了し、二人の間には沈黙が流れる。 本来電車の中で騒ぐのは良くないため、二人の様子はその場に的にしていた。


(満員電車は嫌いだな……。 俺は男だから大丈夫だけど、よく痴漢の現場を目撃してしまうんだよな。 その時のオッサンの目つきは思い出すだけでも背筋が凍るよ。 頼むから誰も朝陽に痴漢をしようとしないでくれ)


 碧斗は完璧なるフラグを立てていた。 朝陽は目の前でそんなことが起きているなどと知らず、ボーッと流れる景色を眺めていた。

 安全で何も起こらないまま三駅を過ぎた。

 しかしここで事件が起きる──。


「──っ!」


 碧斗がたまたま視線を移した先に、嫌らしい目付きをした中年の男性がいた。 その目は完全に朝陽のお尻を捉えていた。

 その男は見るだけでは飽き足らず、そっと手を伸ばした。


「オッサン、痴漢は犯罪だ。 今すぐにその場を去れ」


 碧斗の冷たく凍るような声に中年男性は怯えたような表情を浮かべ、次に止まった駅で足早に去っていった。


「先輩……、ありがとうございます」


 この頃朝陽からは『ツン』百パーセントの対応を受けていたので、お礼を終われたことに驚きを覚え、それと同時にむず痒さを感じた。


「う、うす」


 二人の降りる駅はどちらももう少し先だ。 二人の間にはもう一度沈黙が訪れたが、先程とは違い気まずい。


(恐らく、というか確実に変態オッサンのせいだ……。 許さん!)


 碧斗は心の中で勝手に先程の中年男性のせいにする。

 二人はボーッとしていると電車が強く揺れた。 それは急なカーブに差し掛かったから起きたことだ。


「うわっ!」


 筋肉質な碧斗はつり革を持つ手に力を入れたお陰でバランスを崩さなかったが、朝陽は思いっきりバランスを崩した。


「危ない!」


 咄嗟に碧斗は手を伸ばす。 結果的に朝陽は倒れなかったが、碧斗の胸の中で包まれる形になってしまう。

 朝陽は胸に顔を埋めたまま動かなくなる。 碧斗は「おーい」と声をかけようとしたが我慢した。 


(ここで指摘すると朝陽は絶対に暴れだすな)


 そう確信すると、背中に当てていた手は下ろしたが、胸はもう少しだけ貸しておくことにする。


(先輩のいい匂い……。 好き♡)


 碧斗は人の心を読む力を持ち合わせていないため、今の朝陽の心を知ることはできないが、「妙に自分の胸に顔をスリスリしてくるな」と思うのであった。


 ◆


 週明けの放課後──。


 碧斗は駅のホームで電車を待つ。 すっと視界の端に赤くて長いものが揺れた。


「先輩、先週はありがとうございました。 今日も早いですね」


「朝陽もな」


 朝陽の胸の内に隠された、自分への好意に気づいていない碧斗は、普通に友達に話しかけるように言う。


「私は弟の面倒を見ないといけないので……」


 少しだけ困ったように朝陽は言う。 碧斗には兄弟がいないから朝陽の困ったような表情の意味はわからず、反応に困る。


「先輩は何をするんですか?」


 碧斗が反応に困っていることを察し、朝陽は質問をすることにする。 

 碧斗は今日人生の中での大きな一歩を踏み込む。 それは──。


「俺、今日からバイトなんだ」


「へ~、どうしてバイトを?」


「俺、親に家を追い出されたんだけど、仕送りのお金が少なすぎて趣味にお金を費やせないんだ。 だからお小遣い稼ぎにバイトする」


 そう言って碧斗は「あはは」と笑う。


「頑張ってください! 先輩は優しいので多分大丈夫です!」


 本当なら可愛い後輩からの言葉だ。 ありがたく受け取っておきたいところだが、朝陽はつい最近まで『ツン』百パーセントだった。 明らかにおかしい返しに、碧斗はドン引きするができるだけ真顔で「ありがとう」と返しておいた。


 ◆


「今日からバイトさせてもらいます。 橘碧斗と申します。 よろしくお願いします!」


 人の居ない個人経営のレストランに碧斗の声が響く。 ご飯時になると人で溢れかえり、全く人手が足りていないらしい。

 新人ということで、バイト初日の今日は皿洗いをすることになった。


「碧斗くんって言ったかな~? 私、お姉さんだからしっかりと教えてあげるね~」


 ゆったりとして、自由人のような先輩が碧斗に仕事を教えてくれるようだ。

 碧斗はこの先輩に見覚えがある。 碧斗と同じ学校に通う、三年の先輩だ。 胸に養分が集まりすぎていて、男子達からは神を崇めるような視線を受ける。 そして女子達からは「私にも分けてほしい」という羨望の眼差しを受ける。

 とにかく凄いボディーをしているため学校内でも有名だ。


(この先輩、名前なんだったっけな──)


「あ、そういえば私まだ名乗ってなかったよね~。 私は白石由佳里(しらいしゆかり)。 是非ゆーちゃんとでも呼んでねっ!」


「わかりました白石先輩」


 由佳里は頬を膨らまし、「面白くなーい」と呟くと、早速仕事に取りかかる。



 この時碧斗は知らなかった。 この日出会った白石由佳里はとんでもないヒロインだと言うことを──。

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