第6話 ツンデレちゃんは『ツン』100%
【伊集院朝陽】について話すとしよう──。
朝陽はこの学校の新人だ。 恵奈や優愛は身長百六十センチを越えているのに対し、朝陽は百五十センチもない。 そのせいか朝陽は「小動物みたいで可愛い」と学校中から温かく見られている。
朝陽は『小動物みたい』と言われるのが嫌なようで、本人の前で言うと噛みつく寸前の狼のような目で睨まれる。 一部の男子達が睨まれることに、快感を覚えてしまうくらいだという。
そんな朝陽はなぜ碧斗のことを好きになってしまったのか、遡ること一ヶ月前──。
◆
入学式を終え、碧斗が二年生に進級してすぐのことだ。
授業がはじまるすんぜんだと言うのに二年の教室しかないフロアに迷い混んでいる少女がいた。 その少女こそが朝陽である。
小さい体のわりに出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、男子と女子、どちらからも魅力的な体型の朝陽は、二年の男子から嫌らしい視線をひしひしと感じていた。
目には涙が滴となって溜まっていた。 少し引っ込み思案な性格もあってか、次の授業の行われる理科室の場所がわからないのに聞き出せないでいた。
しかし自分の身は自分で守るため、朝陽はお得意の鋭い目付きをフル発動していた。
そのせいか、朝陽に対して下心のない優しい二年生も、手を差しのべることができない。
その様子を近くで見ていた碧斗は「しょうがないな」と呟いてから朝陽の目の前に立ちはだかった。
「やあやあ、そこの迷子のお嬢さん。 何か困ったことでもありましたか?」
朝陽を緊張させないために、碧斗はあえてギザなふうに言う。
朝陽は緊張はしなかったものの、「今までに出会った人の中で一番ヤバイ人来ちゃった……」と思い、分かりやすく警戒した。
少し身を引いても碧斗は動じず朝陽の元に寄った。
「はい、おふざけはここまで! で、どうしたの。 迷子か?」
驚くほどにテンションの変わった碧斗に、朝陽は思わず目を見開き、顔を赤くしながら口を開く。
「理科室、どこですか……」
「理科室か、走れば授業には間に合う。 ついてこい」
時計に視線を移し、自分は授業に間に合わないことがわかっていたが、朝陽の持つ教科書を持ち、廊下を駆ける。 すぐに碧斗の背中を追いかけるように、朝陽も廊下を駆ける。
授業が始まる一分前に、二人は理科室にたどり着くことが出来た。 案内し終えると、碧斗はすぐに帰った。
碧斗の背中が見えなくなるまで、朝陽は走って来た道を眺めてたのだった。
◆
「教室の前にアオっちのことを探してる一年生がいるよ~」
昼休みが始まって十分ほど経った時に恵奈から言われたことだ。
碧斗はちょうど食べ終えた、コンビニの袋パンのゴミをゴミ箱に放り込み、廊下に出た。
そこには先程助けた朝陽がいた。
「おー、さっきの子。 どうした?」
「先輩は私のせいで授業に遅れましたよね……」
「え? 遅れてないよ」
実際は遅れてしまったが、謝られても面倒くさいだけなので、適当な嘘で誤魔化しておいた。
「橘くんが授業遅れてくれたおかげで、今日の授業楽しかったね~」たまたま近くを通りかかった女子二人組に、即ばらされてしまった。
朝陽は「やっぱり」と言いたげにジト目を向けてくるが、碧斗は知らんぷりをする。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「大丈夫、大丈夫。 ところで君は遅れなかったか?」
「お陰さまでね」
申し訳なさそうにそう言う朝陽に、碧斗はキメ顔をして言う。
「俺は、お嬢さんが恥をかかなくて嬉しい、ze!」
「あー、うー」
予想だにしないことを言われ、朝陽は母音を並べながら困惑している。 碧斗は「決まった……」と言わんばかりに、前髪をかきあげる。
そしてすぐに、目の前から「はぁ……」と小さいため息が聞こえる。
碧斗の目の前には、少し目の下をぴくぴくと動かす朝陽。
「先輩、気持ち悪いです」
二人は今日会ったばかりだが、この日から一週間ほど『ツン』百パーセントの対応が続くのだった。
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