第4話 清楚ちゃん時々カミナリ
【佐倉優愛】について話すとしよう──。
優愛はかの有名な佐倉グループの一人娘だ。
スラリと高い身長に綺麗な顔立ち。 長い黒髪のハーフアップがとても似合っている。
そこに大和撫子の要素が加わり、誰もが彼女を清楚系だと勘違いをしていた──。
「なぁ碧斗。 今日も佐倉さん可愛い、というか美しいよな〜」
廊下で優愛の隣をすれ違った際に、碧斗に耳打ちをしたのは荒木冬馬。
高校で初めて知り合ったが、今となっては親友と言ってもいいくらいの仲だ。
よく合コンに通っているようだが、決して上手くいった情報は耳にしない。
そんな女子に飢える冬馬が今一番押しているのが、優愛だ。
どうやら落としたハンカチを拾ってもらい恋に落ちたとか……。
碧斗はその話を聞かされた時、応援したい気持ちよりも「お前ハンカチ持ってきてたんだ。 以外だな……」という気持ちが前に出てきてしまい、曖昧な反応を返してしまったのだ。
「確かに美しいけれどな……」
碧斗は優愛と面識があるため、素直に容姿を褒めることを少し躊躇してしまう。
「俺の事を好きになってくれないかなー」
馬鹿なことを呟く冬馬の隣で、優愛との出会いを思い返していた。
◆
遡ること半年前──。
この日、碧斗は彼女である瑠花と『朝食はご飯派かパン派か』という名目で喧嘩し、ブランコに腰を下ろして降りてくる夜の帳を、ただジッと眺めていた。
その時──。
「そんなところで暗い顔をしてどうなさったのですか。 良ければ私が話を聞きますよ」
制服に身を包む優愛は、そっと隣のブランコに腰を下ろした。
「け、怪我してるじゃん……!」
優愛の話はそっちのけで、碧斗はたまたま視界に入った優愛膝元にある擦り傷の心配をする。
「お、お気になさらず! 少し擦りむいてしまっただけですので」
少し焦りながら優愛は怪我のことに触れられないようにするが、碧斗は鞄を漁ることに集中していて気づかなかった。
「あった……!」
小さく喜ぶ碧斗の手には、通常サイズの絆創膏が。
早速優愛の擦り傷のある膝元に貼った。
「どうぞ、当たり前だけど使用済みじゃないからさ!」
貼り終えると、ゴミをポケットの中にねじ込み、颯爽と公園を去っていった。
後に残された優愛は、膝に貼られた絆創膏と、隣でまだ微かに揺れているブランコを交互に見ていた。
「落ち込んでたのではなかったのですか……?」
顔を真っ赤に染め、ボソッと呟かれた疑問。 これの答えは簡単だった。
碧斗は彼女がいる身だと言うのに、他の女の子に触れてしまうという、自信で決めた『禁忌』を破ってしまったためである。
そこで初めて目が覚めた碧斗は、瑠花との喧嘩内容が馬鹿馬鹿しいことに気づき、自分から謝ろうと決め、瑠花の家に向かったのだ。
◆
「ねぇメイド?」
「はい、お嬢様!」
薄暗い部屋の真ん中で、優愛は自宅の専属メイドを呼んだ。
メイドは漫画で登場しそうな、フリルのたくさんついたメイド服を着こなしている。
「私と同じ高校に通っている、橘碧斗という男子について調べて頂戴」
「かしこまりました」
優愛の命令により、メイド服を着ていたメイドは、一瞬にして黒スーツに身を包む。
命令をしてから五分も経たぬ内に、メイドは部屋に戻ってきた。
手にはたくさんの書類。 これ全て、"橘碧斗"に関する情報だ。
これが佐倉グループのS級メイドの力。 ちなみに佐倉グループにはE~S級のメイドがいるが、S級となると軍人並みの力があるという。
「よくやったわね。 下がっていいわ」
「かしこまりました」
任務を終えたメイドは、またしても一瞬で着替え、今回は黒スーツからメイド服に戻り、部屋を足音を鳴らさずに去っていった。
「さてさて、碧斗くんとはどういう方なのでしょうか──」
「おりゃっ、食らえぇー!!」
「ギャー! や、やめてくれ……!」
翌日、廃工場に激しい轟音と、大人の男の情けない声が響き、鉄で出来た機械などによって細かく反響する。
「おりゃっ、今日の私は荒れてんだァー!」
清楚ちゃんこと、佐倉優愛は東京で暴れるヤンキー共を、一人でコテンパンに殴り倒していた。
そう──。 優愛は家や学校ではお淑やかに日々を過ごしているが、本当の顔はスケバンだったのだ。
(碧斗くんが付き合っていただなんて……! 瑠花って子と付き合っているらしいけれど、絶対私の方がいいのにィー!!)
優愛は碧斗から絆創膏を貼って貰い、恋に落ちた。 詳しく言うと、傷を見られてしまい「責任取ってよね♡」状態。
更に詳しく言うと、愛娘を溺愛する両親は、優愛がスケバンだということは知らない。 知っているのは、せいぜい昨夜の専属S級メイドくらい。
そして自然と自分の傷を見られてしまうことは、自分の裸体を見られているのと同じことだと思ってしまうようになった優愛は、碧斗に擦り傷を見られた挙句、そこに絆創膏を貼られてしまった。
これはもう結婚して責任を取ってもらうしか他ないのだ。
しかし優愛が出会う半年前に碧斗は付き合い始めた。
ヤンキーやスケバン以外には、手をあげないと決めている優愛は『瑠花がスケバンであること』。 又は『瑠花が碧斗から身を引くこと』をずっと願っていたのであった。
こうして、碧斗が瑠花にデレデレしている所を目撃してしまった日には『清楚ちゃん時々カミナリ』と激しい日々を過ごすこととなった優愛だった。
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