第19話 ツンデレちゃんは『勘違い』1…
「先輩は私のことが好きなんだよね?──それなら両思いだね♡」
頬を朱色に染めた朝陽の言葉に碧斗は思わず目を丸くするのだった。
◆
放課後。碧斗は夕食の材料がないことに気づき、高校と駅の間にあるスーパーに立ち寄っていた。
「醤油、醤油……あった!」
碧斗は探し求めていた醤油に手を伸ばす。ちょうど目線くらいの高さにある。
醤油に手が届く寸前。死角から手が生え、醤油の前で手と手がぶつかった。
「あっ!」
隣から声がしたので、そちらの方へ視線を動かす。しかし誰もいない。
碧斗は、なんだ空耳か、と思い醤油の方へ視線を戻す。
「先輩。私の声を空耳だと思わないでください」
もう一度声がしたので見てみるが誰もいない。
「なんだ空耳か……」
「先輩。下です」
「え?」
首を少し曲げると、そこには朝陽が立っていた。買い物カゴを右腕にぶら下げているので、碧斗と同じように買い物に来ているようだ。
「ごめんごめん。身長低くて見えな──痛っ!!」
碧斗の失言を朝陽は聞き逃さなかった。脛を思いっきり蹴られた碧斗は、周りに他にも買い物客が居るというのに思わず大きな声を上げる。
「先輩。サイテーです」
朝陽はそう言うと、レジに向かって歩き始めた。醤油を買い忘れていることにも気が付かずに。
◆
「よっ。朝陽」
「うげっ……。また先輩ですか。着いてこないでください。今から先輩はストーカーだ、とでも言いふらしますよ?」
「俺は朝陽と同じ駅で乗って、同じ駅で降りるんだ。ここに居て当然だろ?」
「う」
朝陽はバツの悪い顔を浮かべる。
それからすぐに電車がホームに入って来て、二人はつり革を握りながら流れる景色を眺めた。
「朝陽。家の方向同じだから途中まで一緒に帰らないか?」
「えっ!?(──どうしてそんな事を真顔で言えるんですか……)」
「ん。なんか言ったか?」
小鳥のさえずりのように小さい声を碧斗は聞き取ることが出来なかったのだ。
「何も無いですっ!」
「そっか」
話はそこで終わり、二人はゆっくりと足を進めた。
分かれ道が見えてきた時、碧斗は持っているレジ袋から醤油を出して言った。
「醤油。買い忘れたんじゃないのか?」
「あっ……!忘れていました……」
「だろうな。朝陽のそういう抜けてるところ可愛いな。というか守ってやりたいって思うな」
碧斗は朝陽の頭にぽんと手を置いてに言う。そして朝陽はその場でたちどまり、顔を真っ赤に染めている。
先程から、あわわ、と声を漏らしているが、本人には自覚がないだろう。
「朝陽……?」
碧斗が心配そうに聞くが、反応はない。
「大丈夫か?」
次は肩を揺らしながら言ってみる。すると──
「せ、先輩っ!」
碧斗は上目遣いで覗き込んでくる朝陽と目が合う。
時間がいつもよりもゆっくりに流れているように感じる。聞こえていた音が遠くなり、やがて聞こえなくなる。
「先輩は私のことが好きなんですか?」
「はい?」
「だ、か、ら!先輩は私のことが好きなんですか?」
「どうしてそうなった……!?」
いきなりの意味不明な言動に、碧斗は思わず身を引く。
目の前には顔を真っ赤に染めている女子がいるというのに、碧斗は顔色一つとして変えようとしない。
「まあ確かに。朝陽のことは《《友達としては》》好きだぞ」
「やっぱり!──そうだと思ってたよ」
「先輩は私のことが好きなんだよね?──それなら両思いだね♡」
頬を朱色に染めた朝陽の言葉に碧斗は思わず目を丸くするのだった。
(勘違いしてないか?俺が言ったのは、《《友達として》》だ。──それに、両思いだね。ってなんだ!?)
「朝陽?俺は友達としてって言ったんだが……。勘違いされては困る……」
「ふぇ?」
そして初めて朝陽は自分が今、暴走していることに気がつく。
元から赤かった顔は更に赤くなり、今にも蒸気を発しそうだ。
「せ、せ、先輩のばか〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
朝陽はそう言うと、駆け足で去っていった。
碧斗は朝陽の姿が見えなくなるまで、一言も発することが出来なかったのだった。
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