第16話 エセギャルちゃんは一歩近づく
サイン会当日。
書店はいつも以上に人で賑わっている。それは今日、この書店でアニメ化を果たした人気漫画の作家がサイン会が開かれるからだ。
「見て見て、アオっち。すっごいたくさんの人!」
「そうだな。『ゴブ転』は人気作だからな」
二人は作者でもないのに嬉しそうに、うんうん、と頷いている。これがオタクの性質ということか。
まだサインを貰っていないというのに満足そうな表情を浮かべている。
「とりあえず並ぼっか!」
恵奈はそう言って一足先にサイン待ちの列に並ぶ。
碧斗は続くように恵奈の後を追ったが、すぐに足を止める。
昨夜。碧斗は緊張であまり寝着くことが出来なかったのだ。しかし今はそんな緊張など少しもなく、サイン会を楽しんでいる。
その事実に碧斗は驚いているのだ。
「どーかした?」
じっと地面を見つめる碧斗の視界いっぱいに、恵奈の綺麗な顔が映る。
碧斗の胸はドキリと跳ねる。思わず一歩足を引いてしまう。
「何も無いよ。恵奈、前進んでるよ」
「えっ!?……ほんとだ!アオっちも早く並ぼ!」
真顔を貫きながら言うと、恵奈はくるりと後ろを振り返り、碧斗の手を引いて列に向かった。
「一緒に写真。っていいですか?」
目の前で恵奈は『ゴブ転』の作者に向かって言う。その顔は太陽のように輝いている。
「いいですよ」
「やった〜!ほら、アオっちも一緒に撮ろっ!」
「えっ!?」
碧斗はまたしても手を引かれる。そして作家も含め、三人で写真を撮った。
碧斗の隣で映っている恵奈はとても幸せそうだ。
「とても仲のいいカップルですね」
作家は優しく微笑みながら言う。
碧斗はすぐに「違います」と否定する。隣にいる恵奈は目をパチパチと瞬かせている。
「仲のいいカップル……。そうです。私達は仲のいいカップルです!」
「は、はぁ……」
それは作家はなんと言っていいのか分からず、やっと出た言葉だった。
自分の「仲のいいカップルですね」という言葉に対し、目の前の二人の高校生はそれぞれ違うことを言ったからだ。
男子の方は否定し、女子の方は肯定した。
「後ろ並んでるからもう行くぞ。サインと写真。ありがとうございました」
固まって動かない恵奈を引き、碧斗は軽く頭を下げ、その場を去った。
◆
「カップルね……。カップルか……」
恵奈は先程からずっとこの調子だ。今は書店の近くに位置する公園のベンチの上で微笑んでは、寂しそうな顔をしている。
「あはは。カップルだったら良かったのにな」
小さく吐き出された恵奈の言葉は、碧斗に届く前に消える。
「そうだ!連絡先交換してくれないか?」
話の話題を作るために碧斗は言う。
恵奈は「えっ!?」と驚きながら下を向いていた顔を上げる。
「さっきの写真。恵奈のスマホで撮ったじゃん?それを俺も欲しいなって思ってさ」
「あー。そういう事か……」
理由を聞き、またしても恵奈は俯く。
(いやっ、違う。アオっちは私の連絡先を知りたいからだ!絶対そうだ!……やっぱりアオっち、好きだな)
「連絡先。いいよ!」
またしても顔を上げて言った。次は百億点の笑顔で。
その瞬間、碧斗は体に異変を感じる。
(顔が熱い。胸の鼓動が早い。俺はどうしちまったんだ……!?)
碧斗以外、誰にも説き明かすことの出来ない謎。
この体に起きた異変について、碧斗は解き明かすことは出来るのか。
そして恵奈は碧斗に「好き」と伝えることが出来るのか──。
その答えに辿り着くのはまだまだ先のようだ。
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