第11話 エセギャルちゃんは揶揄われる
「みんなおはーっ!」
週明け。 恵奈は太陽のような明るい笑顔で教室に入る。
「おはよー、恵奈ちゃん」
「恵奈っち、おはー」
と言って、クラスメイトは次々と恵奈の元に駆け寄る。
「恵奈っち。 先週末に凄い面白いことがあったんだよ〜!」
「なになに、聞かせて〜」
恵奈は軽い熱中症で、先週末は欠席していた。
そこで「せっかくだから今から言うことは、恵奈のリアクションも見たい」と思ったクラスメイトは、休日にあえて言わなかったのだ。
「えっとね──」
茶髪のショートボブの女子が、ヒソヒソと耳打ちをする。
初めはうんうんと頷きながら聞いていた恵奈だったが、動きは止まり、ついには顔を真っ青にする。
「え……。 アオっちがあの白石先輩に告白されたの?」
先程まで高かった恵奈のテンションは、ジェットコースターのように急降下する。 そして立ったまま石のように動かなくなる
その様子を見たクラスメイトはこっそり笑う。
あえて由佳里が振られた所までは言わなかったので、恵奈勝手に勘違いをし、は想い人が付き合ったと思っているのである。
「でもね、《《安心して》》。 碧斗くんは「俺には好きな人がいるから」って真面目な顔で白石先輩のことを振っちゃったんだよ!」
「ほんとっ!? 良かったぁ……」
思わず腰が抜け、恵奈はその場で立ち上がれなくなる。
「はいはーい。 好きな人が付き合っていなくて安心しちゃったんだよね〜?」
「う、うん……。 怖かったよぉ……」
先程耳打ちをしたクラスメイトが煽るように言うが、恵奈は涙を浮かべて安心したように微笑む。
その言葉を聞いた男子はその場で膝を地面につけて絶望する。 対して女子は黄色い声援をあげ、恵奈のことを心から応援する。
そうして少々騒がしくなったところに、碧斗が現れた。
「おはーっす」
「「「「「……」」」」」
「みんなどうしたの、俺の事をそんなに見つめて。 ……あ、みんな俺の事が好きになっちゃった? 照れるじゃねぇかよ〜」
「「「「「……」」」」」
挨拶への返事がなく気まづくなった碧斗は、一人で話を進めるが、誰も言葉を発さない。
「恵奈っち、碧斗くんが来たよ。 挨拶してあげないと好きになってもらえないよ?」
と謎の言い回しをされ、恵奈は初めて我に返る。
「(私アオっちのことを好きだなんて一言も言ってないよ?)」
恵奈は頭にはてなを浮かべながら、コソッと言う。
「(さっき碧斗くんが付き合ってないって知ったときに、「怖かったよぉ」だなんて言ってたけれど?)」
名誉のため、恵奈に合わせてこちらもコソッと言う。
すぐに自分のひどい醜態を晒してしまったことに気づき、顔をゆでダコにする。
「わ、私はアオっちのことなんて、嫌いだー!」
そう大声で叫び、恵奈は教室を走り去ってゆく。
傍観者であったクラスメイトは愉快そうに笑うが、一人違う人がいた。
「お、俺。 恵奈に悪いことしたかな……」
碧斗は顔を真っ青にしてブルブルと震える。 それは以前恵奈を怒らせた時に激しく叱られたからだ。
それ以降、碧斗は恵奈の恨みを買わないようにしている。 しかし周囲にたくさんのクラスメイトが居るというのに、大声での嫌い宣言。
この時碧斗は本気で焦り散らかしたのだった。
◆
「私、アオっちに酷いこと言っちゃった……」
走って荒くなった息を少しずつ整えながら、恵奈は屋上への踊り場で呟く。 まだ朝のホームルームまでは時間はある。
息が整えば、階段に腰を下ろすことにした。
(アオっち、好きな人がいるんだ……)
恵奈は先程の会話を思い出していた。
それって絶対に私のことね! だって私は入学式の前からアオっちと知り合いだし(※碧斗は覚えていないです)、アオっちはいつも私に話しかけてくれるんだもの(※誰に対しても同じくらい話しかけています)。
「きゃ~!!」
恵奈の思いは胸の中では収まらず、声として溢れ出す。
ほんと、アオっちったら可愛らしいところがあるんだから! 白石先輩が振られた今。 アオっちを狙う人は私だけ(※個人の感想です)!
恵奈は誰もいない階段で立ち上がり、盛大にガッツポーズを決めるのだった。
「アオっち。 告白をしてくれるの、楽しみにしてるからね♡」
虚空に向かって放った言葉は、水溜まりに落ちる雨雫のようにすぐに消えていく。
しかし恵奈の『碧斗のことが好き』という思いは簡単には消えずにいた。
恵奈は「やっと自分のターンが訪れた」と思いながら、スキップを交えて教室に戻ってゆくのだった。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたらモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!