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第1話 先輩に可愛い彼女をNTRれた!?

【付き合う】それは、お互いに恋愛感情を持ち、友達以上の関係を築くことである。


 ◆


 ここに一人の高校生がいる。 名は橘碧斗(たちばなあおと)と言う。

 家族の縁で結ばれた両親に追い出され、今はのうのうと東京で一人暮らしをしている。


 そんな碧斗にも長らく付き合っている彼女がいる。 そう、碧斗は親という呪縛から解き放たれた途端、高校でイチャラブしているのである。


 今日で付き合ってからちょうど一年。

 デートの予定のある碧斗は、少々浮かれているようだ。


 いつも以上にオシャレをしてやる。

 そう意気込んで、朝早くから必死に身繕いをしている。


 先程から衣擦れの音が漂う部屋に、突然着信音が鳴り響く。

 「誰かから通話がかかってきたのは何時ぶりだろうか」と思いながら、碧斗はスマホの画面を覗く。


 表示されていたのは、『梓瑠花(あずさるか)』という文字。

 瑠花とは碧斗の彼女の名前だ。


 碧斗はなんの躊躇いもなく、『通話』と書かれたボタンをタップした。


「もしもし、どうした?」


『ごめん碧斗くん。 私今日用事が入っちゃった』


「え、それって……」


 碧斗の脳内に、『絶望』という文字が頭をよぎる。


『あ、ごめん行かないと。 通話切るね──』


 室内には沈黙が続いた。

 可愛い彼女との一年記念日。 楽しみで一睡も出来なかった。

 しかし今この瞬間、『用事がある』という理由でドタキャンされ、予定は無くなってしまった。


 目には涙が溢れる。

 一途な少年、碧斗には衝撃が強すぎた。


 「そんなに!?」と驚く人もいるかもしれないが、碧斗は膝から崩れ落ちた。

 数分の間、起き上がることもままらなかった。


 瑠花との甘い時間を過ごす予定だった碧斗の脳は、猛烈に糖分を欲している。

 そして身繕いも済んでいる。

 それならやるべき事はただ一つ。


「パフェ食べに行こ」



 という訳で現在居るのは、新宿駅前。

 ホテル街の近くということもあり、少々複雑な気持ちを抱いた。


 周りには手を繋ぐカップルばかり。

 碧斗は目を瞑り、深呼吸をする。


(俺は甘いものを食べに来たんだ)


 邪念を払い終え、インスタで見つけた人気パフェ店を目指した。



 目的の店に着くと、偶然にも客足が落ち着いており、すぐにお目当てのパフェにありくことができた。

 鼻孔をくすぐる甘い香り。

 碧斗は目を輝かせながらかぶりついた。


「ん〜!!」


 ──フルーツと生クリームが口の中でとろける〜。


 碧斗が頼んだのは、生クリームが通常の五倍で売りに出されているパフェだ。

 通常なら胃がもたれてもおかしくない。 しかし絶賛ご傷心中。

 そんな碧斗には、胃もたれという概念は存在しないのだ。


「ご馳走様でしたー!」


 糖分で満たされた碧斗には最早敵などいない。

 カップルで溢れる大通りの真ん中を、ズカズカと歩く碧斗。

 その顔には仏のような笑みが浮かんでいる。

 すれ違うボッチ達は、まるで神を崇め終えた信者のように、幸せそうな表情を浮かべた。


 しかしうきうき、ルンルンな神様タイムももう終わり。

 すれ違った男女の二人組を見て碧斗は肝を潰す。


「瑠花!?」


 いきなり大声を出したので、周りから注目の的となる。


「あ、碧斗くん……」


 少し驚く瑠花からは、風呂に入ってすぐのような匂いがした。

 しかし彼女から漂うジャンプーの香りは、いつもと違う。


 そしてその隣で大きな欠伸をする男は、碧斗も知っている。

 昨年の文化祭で行われた、ミスターコンにてグランプリに輝いた先輩、東條颯斗(とうじょうはやと)だ。


 まるでジェットコースターの急降下のように、碧斗の気分は落ち込む。

 碧斗&瑠花カップルは校内でも有名だ。 だから颯斗が知らないわけが無い。

 そして二人から同じ匂いがする。 確定だ、彼女が寝盗られた。


 信じたくも内現実を目の当たりにし、碧斗は混乱する。

 「もしかしたら兄弟かもしれない」という一筋の希望を信じ、碧斗は口を開いた。


「お二人はどういうご関係で……」


「ん、俺がお前の彼女を寝盗った」


 なんの躊躇もなく放たれたその言葉。

 颯斗の隣に視線を向けると、恥ずかしそうにモジモジとする瑠花の姿。


 碧斗は本日二度目の『絶望』という文字が頭をよぎる。 そして本日二度目となる膝からの崩れ落ち。

 衆目にさらされているというのに、碧斗は立ち上がろうとしない。 いや、立ち上がれないのである。


「あ、碧斗くん!」


 瑠花は何かを思い出したかのように、碧斗の名を呼ぶ。


「な、なに……!」


 碧斗の声は少しキレているようにも聞こえる。


「私、颯斗先輩と付き合ってるの。 もうバレたからこの仮初(かりそめ)の関係は終わり。 じゃあね、碧斗くん!」


 本気(ガチ)で愛していた(元)彼女からの言葉。 「瑠花にとっては仮初だったのか」と碧斗の心を抉る。


 碧斗は無言のまま立ち上がり、その場を猛ダッシュで立ち去った。

 「元カノとその浮気相手に、惨めな姿を見せる訳にはいかない」という思いで、碧斗は逃げたのだ。


 ◆


「くそぉ〜! 俺の恋心を弄びやがって……」


 一途な碧斗でも流石に一夜寝たら吹っ切れた。

 碧斗でなかったら、今すぐにでも瑠花と颯斗の家に行って呪っていたかもしれない。

 しかし最低限の常識は弁えているつもりだ。 碧斗は煮えたぎる復讐心を抑え、高校生としての一日を過ごした。


 流石ミスターコンでグランプリを取った先輩といったところか。 情報の回るスピードが早すぎる。

 碧斗が登校し終えると、クラスメイトからたくさんの慰めの言葉を受けた。

 それは碧斗と瑠花、共に顔面偏差値が高いという事もあるだろう。


「おはーっ! アオっち、彼女ちゃん浮気されちゃったんでしょ〜? 大変だったね」


 教室に入って早々に慰めの言葉を伝えてくれた金髪のポニーテールを揺らす女の子。 名は如月恵奈(きさらぎえな)、自称ギャルだ。

 彼女も心做(こころな)しか嬉しそうに見える。


「大変じゃ済ませないくらい大変だよ」


「あはは、それなら……」


 恵奈は机に突っ伏す碧斗の耳元で囁く。


「なら私が彼女になってあげよっか?」


「はっ!?」


 平然とした表情で言われ、碧斗は慌てて体を起こす。


「わー、耳元で叫ばないでよー。 冗談に決まってるじゃん。 あれれ、まさか私と本気で付き合いたいのかな〜?」


 恵奈のバカにするような笑みで、碧斗は我に返る。

 恵奈はいつも冗談ばかり言ってる女の子だ。


(恵奈の「私が彼女になってあげよっか?」という言葉は今までに何度も聞いてきた。 今更何を意識している)


「んな訳ないだろ……! あ、まさか恵奈が俺と付き合いたいのかー?」


 やられっぱなしでは立つ瀬がなくなる。 碧斗はカウンターを決める。


「〜〜〜!?」


 一瞬にして顔を茹でダコのように赤くした恵奈は、返事を残さずに教室から去ってしまった。

 いつもなら直ちに否定をする恵奈。 しかし今日の彼女は少しおかしい。

 教室に残された碧斗は、なんとも言えない雰囲気に包まれ、恵奈の飛び出した扉をただ見つめることしかできない。



 この時からだった。 恵奈を含めた数々の美少女達の様子がおかしくなったのは──。

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― 新着の感想 ―
新宿駅前、ホテル街の近くがやや奇異に感じますが、(西武新宿ならまだしも)まあそこはそこですか、歩いてスイーツ店が有る歌舞伎町に行ったんでしょうし。
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