Part 4
剣士試験が始まって、早くも十分が経過した。試験会場にいるノネとサラは、弟子の活躍を映像から観ていた。
「ユキちゃん達、上手く立ち回れているわね」
「アスタとフェイもだな」
「なんだかんだ二人が心配なんじゃない、ノネ」
「それを言うならサラもだろ?」
「まぁね」
二人が話している中、一人の試験官が駆け寄って来る。
「ノネ様! サラ様!」
「ん? どうした嬢ちゃん」
ノネの言葉の後に、女性試験官は小声で話しかける。
「突然すみません、私に付いて来てください、お二人にしか頼れないのです」
なにかイレギュラーが起きたと二人は察知し、即座に切り替え付いて行った。
付いて行った先に、剣士試験を担当している上官含め、ギルド長、上級身分の者が集まっていた。
「おぉサラ殿にノネ殿、よくぞここに」
「ギルド長、どうしてここに」
「サラ殿、そしてノネ殿。緊急で申し訳ないが、お二人に依頼が」
サラはもちろん、いつも能天気なノネでさえ、ギルド長や上官の険しい表情で状況を察知し、真面目に聞いた。
「ご依頼とは」
ノネの言葉に続き、上官は答えた。
「単刀直入に言わせて頂くと、《《死剣》》の者が、あの森にいる」
~死剣~
犯罪を犯す剣士の中でも、異常な殺しと強さを成す存在。
死剣、その言葉を聞いた途端、二人はことの重大さをすぐに理解した。
「裏を取った、確実な情報……と言う訳ではなさそうですね」
「サラ殿の言う通りです。しかしギルドに近頃、こんな噂が剣士達の間で流れているのです。《《死剣》》を名乗る者が、名乗っては消えると、そしてそこには必ず……その」
「どうかなさいましたか?」
「にわかには、信じ難いのですが。死剣は名乗った後、ある物を投げ捨て消えると、その投げた物は……中身は、人の指だと」
「……」
「後日その指は、ギルドの受付係の物だと、判明しました。なぜなら、その受付係の自宅で、バラバラ死体が発見され、その指だけが、その場に無かったからです」
死剣は異常なまでの強さと、その者一人一人が、こだわりの殺しを行い、その死体をあえて目立つ場所に放置し、存在をアピールしている。
その危険性ゆえに、かつて討伐隊が編成され、やむを得ない場合を除いては拘束できたのだが、ほとんどが配下の人間で、一割の猛者は最後まで生き残り、その者達を仕留めたのが、ノネとサラの二人だった。
「ギルド長、死剣がなぜ関わっているとお考えなのですか?」
ノネが敬語を使う、普段なら目上だろうがほとんど話し方を変えないノネですら、死剣が絡むと、スイッチを切り替える。
「会場の映像には当然流してないが、空を飛び映像を見せている三羽の内、一羽がある映像を捉えていた。それが、これだ」
その映像鳥が見たのは、一瞬で試験官を殺す黒い影。そしてその後、その死体をバラバラに撒いている瞬間。
「死剣が絡んでいる可能性が少しでもあるなら、私とサラが行きます」
「申し訳ない、だが二人がこの会場にいてくれたのは、不幸中の幸いだ。どうか頼む」
死剣はもちろんだが、弟子の安否を確認する為にも、二人は森の方へ飛び込み、捜索にあたった。
~同時刻~
「あれ、君たち……見ちゃった?」
死剣の一人に見つかるアスタとユキ。戦闘を得意とする二人だが、この瞬間においては、身も毛もよだつ程の恐怖を感じている。もっと怖いのは、なにが怖いのか分からない。
得体の知れない威圧感に、足がすくんでいた。
「ユキ……戦えると思うか?」
勝つかどうかではなく、戦って相手になるかを気にするアスタ。
この時点で、生きて立っている事にさえ、奇跡を感じていた。
「いや、無理だよ」
ユキも、戦って相手になるとは、微塵も思ってはいなかった。
「アスタ君、どうにかしてはや……」
「なに?二人でこそこそ」
「!?」
いつまにユキの背後に周り、両肩に腕を置く死剣、二人とは正反対に、怖いほど落ち着いていた。
「君、女の子なのに良い腕をしてるね。こんなに細くて柔らかいのに、意外としっかりしてる。将来有望ってやつ?あはは……」
死剣はユキの身体を撫でるように触るが、振りほどく力さえなく、むしろ恐怖で倒れる程だった。
「(くっ!)」
ユキを助ける為、死剣を背後から斬りかかるアスタ。この瞬間ばかりは、作戦なんて立てられず、勢い任せだった。
だが死剣は、蚊でも振り払うように、右足を後ろへ伸ばし、アスタを蹴り飛ばした。
十メートルもの距離まで飛び、木に衝突したアスタは、血を流し倒れた。
「……」
アスタの安否を確認したい。本来であればそう考えるが、今のユキは恐怖のあまり、声も出せない程に、身体が固まっていた。
今すぐにでも逃げ出したいのに、身体が動いてくれなかった。
「君は、若く強いまま、僕の手によって命を終える。あぁ……なんて尊きことか。君みたいな可憐な強き少女を、この手で終わらせることができるなんて」
ユキの首元に、ゆっくりとナイフを近づける。
「(ボク……死ぬの……ダメだ。怖くて、考えられない……怖い……死にたくない。誰か……)」
「さようなら」
動けぬまま、静かに死ぬのかと、そう思った時、残った魔力をなんとか振り絞り、死剣に斬りかかるアスタ。
「邪魔」
腕に斬り傷ができただけで、致命傷には至らなかった。
「アスタ……君」
「無駄な足掻きだな……」
邪魔が入り、少しイラつきを見せた死剣。
「ダメ……か」
全力の突進さえ、意味をなさないのかと、絶望に追い込まれる寸前だった彼に、彼女は応えた。
「いや、良い判断だ、アスタ!」
アスタが死に物狂いで呼び起こした魔力を察知したノネは、死剣の腕を切り落とし、その隙にアスタをノネが、ユキをサラが抱き抱え救出した。
「……ノ……ネ」
「良く頑張った、アスタ。あとは任せろ」