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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人気ジャンル:異世界[恋愛]

王子のために愛は厳しく。

作者: 神離人

「『厳しい愛だけが生き残る』。


 これは諸国で活動している

 脳研究グループが発見した法則です。


 "P/NP間認知経路の法則"とも

 呼ばれるこの法則は、

 "ネズミの動物実験"によって発見されました。


 共同生活を行うネズミの群れを

 複数グループ用意しておき、

 性格の偏ったネズミを

 グループごとに振り分ける。

 性格は薬物投与で安定させます。


 『温厚なネズミが多い群れ』と

 『凶暴なネズミが多い群れ』を作り、

 観察したのです。


 結果『凶暴なネズミが多い群れ』だけが

 集団を維持することができました。


 逆に『温厚なネズミが多い群れ』は、

 "環境の変化"に対応できずに

 孤立するネズミが多く出ました。

 

 群れの命運を分けたのは"温度"でした。

 季節による温度変化が起きる度に

 『温厚なネズミが多い群れ』から

 離脱するネズミが現れたのです。

 離脱者のほとんどが、凶暴なネズミでした。


 "凶暴なネズミ"は温度変化を受けても

 活発さに変化がありませんでした。

 温度とは無関係に

 他のネズミに攻撃や求愛行動をしていました。


 しかし温厚なネズミは、

 温度変化によって活動が消極的になりました。

 温度変化から一定期間の間、

 無気力状態になり何もしなくなるのです。


 その間、凶暴なネズミは活発な群れを求めて、

 『温厚なネズミが多い群れ』を抜けるのです。

 温厚なネズミの割合が多いほど、

 凶暴なネズミは早い段階で離脱します。


 凶暴なネズミが居なくなった後、

 無気力から早く立ち直った"温厚なネズミ"が

 群れから離脱していきました。

 周囲が無気力であるため

 単独でエサ探しを行う事になるのです。


 エサ場を見つけた温厚なネズミは、

 エサ場に居座ります。

 他のネズミが合流できれば群れになりますが、

 そうでなければエサが尽きるまで

 居座り居続けるのです。


 こうして『温厚なネズミが多い群れ』は

 "環境変化"に対応できずに

 群れを維持できなくなっていくのです。


 これは人間社会でも観測できる現象で、

 夏場や冬場の活動量が

 群れ内のタイプ割合に左右されるのです。


 さて一方、『凶暴なネズミが多い群れ』では、

 離脱者がほとんど出ません。

 少数の温厚なネズミが無気力であっても、

 多数の凶暴なネズミ同士で

 争いや求愛行為を行うからです。


 ネズミ同士の争いが増えると

 温厚なネズミたちの中に

 厳しい態度のネズミが現れることがあります。

 厳しい態度のネズミは"攻撃的"ですが、

 "群れにいい影響を与える"ことが知られています。


 厳しい態度のネズミが増えると、

 群れの温厚なネズミが

 無気力になることがなくなるのです。


 この厳しい態度のネズミは、

 凶暴なネズミとは違い

 無気力なネズミを攻撃します。


 "勝てる相手全て"に積極的に攻撃する。

 これが厳しい態度のネズミが得た、

 基本的な習性なのです。

 無気力になれなくなった温厚なネズミは、

 いずれ厳しい態度のネズミになります。


 "凶暴なネズミ"と"厳しい態度のネズミ"で

 群れの大半が占められれば、

 群れ内でネズミが大増殖します。


 これこそが"厳しい態度のネズミ"が

 "群れにいい影響を与える"と言われる

 所以です。 


 生まれたネズミは成長期に

 "温厚なネズミ"か"凶暴なネズミ"に

 なることが知られています。


 "厳しい態度のネズミ"は群れ社会の中で

 後天的に自然発生するネズミなのです。

 

 厳しい態度のネズミが行う

 攻撃行為については、

 ストレスによるものという説が

 近年までは最も有力とされていました。


 しかし現在最も有力な説では、

 『求愛のために攻撃を行う』と言われています。


 凶暴なネズミ同士の"争い求愛する習性"を

 元々温厚なネズミが学習して、

 自分たち向けに効率化したもの。

 それが無気力なネズミだけを狙った

 『攻撃による求愛行為』であるというのです。


 厳しい態度のネズミに攻撃された

 温厚なネズミは、性質が徐々に

 厳しい態度のネズミに近くなっていきます。

 求愛に応えるネズミは多くありません。


 群れに温厚なネズミが居なくなると

 厳しい態度のネズミはやむ得ず

 凶暴なネズミに求愛するようになります。


 結果、温厚なネズミがいた頃よりも

 凶暴なネズミを愛する個体が多くなり、

 群れ内で大繁殖が起こるのです。


 ちなみに凶暴なネズミは、

 厳しい態度のネズミに

 感化されることはありません。


 争いが日常茶飯事ですし、

 基本的に凶暴なネズミの方が

 争う力や温度耐性が強いのです。


 以上が『厳しい愛だけが生き残る』の

 由来となる動物実験のお話でした。


 この傾向はネズミだけでなく、

 人間社会やよもぎ社会にも当てはまります。

 我々よもぎが人間社会を理解する上で

 覚えておいて損はありません。


 是非ご活用下さいね、令嬢」


 ある豪邸の一室にて。


 よもぎ<人型>の令嬢は、

 かつて海外の同族が行った

 動物実験の話を聞いていた。

 愛する王子が人間であるため、

 人間社会の勉強をしているのだ。


「これで十分だ!

 俺は王子に

 婚約を申し込むぜ!」


「ご武運を」


 令嬢は豪邸を飛び出した。

 人間を知り尽くした令嬢は

 王子に婚約を申し込むことを

 心に決めていた。



----------



 豪邸を飛び出した令嬢は

 ワープ装置によって

 王宮の近くに到着する。


「ここが王子の王宮か。

 俺のような女には

 ちと旧時代過ぎる住まいだな」


「そこまでだ!

 よもぎの令嬢!」


 令嬢の前に立ち塞がったのは、

 一匹のネズミであった。

 人間サイズのネズミを前に

 令嬢は拳を構える。


「なんの用だネズミ野郎!

 でけえし邪魔だ!」


「貴様、人間の王子と

 婚約するらしいな!

 だが動物実験にネズミを用いた貴様を

 通すつもりはない!

 植物が図に乗るなよぉっ!」


 ネズミは拳を構えて、

 令嬢へと飛びかかった!

 ネズミ特有のフットワークで

 令嬢を囲むように動いていく!


「は、速い!」


「ふははははっ!

 ノロマな令嬢では

 捉えることはできまい!

 おらっ!」


「ぐうぅっ!」


 ネズミは死角となる位置から

 令嬢を殴り飛ばす!

 続けて、ネズミの連続攻撃!

 令嬢のダメージは蓄積していく!


「うぐぐっ。カウンターしかない!

 必殺のカウンターで

 このネズミを打ち破る!」


「何をぶつぶつ言っておる!

 今更詫びても攻撃は止まぬぞ!

 そらそらっ!」


 再びネズミの攻撃!

 攻撃後、ネズミは直ぐに離脱する。

 しかしこの攻撃で

 ネズミの動きは止まった!


「ぐおっ!?

 き、貴様ぁ!よくも尻尾を!」


 令嬢はネズミの尻尾を掴んでいた。

 ネズミの攻撃に隙は無かったが、

 攻撃離脱中の尻尾には、

 掴む隙が生じていたのだ。


「令嬢とはいえ、

 ネズミに力負けはしねえよっ!

 こっち来いてめえっ!」


「うおおおぉっ!?」


 ネズミの尻尾を引っ張り上げ、

 令嬢は、ネズミの体を宙に浮かせる。

 飛んできたネズミの顔をキャッチし、

 ネズミの全てをを吸収する!

 必殺技"よもぎ流ドレイン"が炸裂した!


「ぐわあああああぁっ!」


 ネズミの体は縮んでいき、

 令嬢の手よりも小さくなっていく。

 令嬢が必殺技を解除する頃には、

 ネズミの姿は影も形もなかった。


「安心しなネズミ!

 てめえらで実験する文化は、

 人間にも広めてやるよ!」


 ネズミを倒した令嬢は、

 急ぎ足で王宮に向かった。

 婚約を邪魔するものは、

 必ず倒すという決意を胸に秘めて。



----------



 王宮にやってきた令嬢は、

 王子を発見した。

 しかし王子の傍では

 姫が婚約を申し込もうとしていた!


「王子様。

 是非私と婚約の誓いを

 お願いしたいのですが」


「待てよてめえ!

 そうはいくか!」


「なんですって!?」


 令嬢は玉座の裏から姿を現す。

 玉座の前にいた王子と姫は、

 突如現れた令嬢に動揺を隠せない。


「いい度胸じゃねえか姫!

 人様の王子に

 手を出そうなんてなぁ!」

 

「何ですかあなたは。

 人間には見えませんが。

 ま、まさかあなたも王子を!?」


「そういうことさ!

 国の将来を決める一大事だ!

 決定手段はたった一つ!」


「タイマン勝負……!

 ふふふっ。一国の姫である私に

 戦闘で勝てるとお思いで?」


「こっちは令嬢だ!

 姫が相手だろうが

 一歩も劣りはしねえぜっ!

 うおおおおおおおぉっ!」


 令嬢は姫に向かって突撃する!

 空気中の熱を拳に集め、

 燃える拳を振りかぶった!


「その熱さ、

 姫の私に相応しくない!

 うおおおおおおおぉっ!」


 姫は空気中の冷気を身にまとい、

 拳に一点集中させる!

 冷気の拳で熱を迎え撃つ!


 令嬢の燃える拳と

 姫の冷気を纏った拳。

 2つの拳が正面からぶつかり合い、

 両者の拳にダメージが入る!


「ぐうっ!退けてめえ!」


「くっ。いいでしょう。

 あなたは退かずに

 ……無様に砕けなっ!」


 姫の体が霧のように消えていく!


 拳を支える姫がいなくなり、

 令嬢はバランスを崩してしまった。

 その瞬間、令嬢の背後に

 姫は姿を現した!


 姫は拳を振りかぶり、

 ふらつく令嬢に振り下ろした!

 "大陸分断落下"により、

 令嬢の体が床に叩きつけられた!


「ぐああぁっ!」


「さあ次でトドメです。

 ……あ、あれ?」


 必殺技を撃ち終えた姫は、

 重い足取りでふらついている。

 ついには膝をつき、

 床に倒れ伏してしまう。


「こ、これは……

 一体……なぜ?」


「いってて……。

 ま、間に合ったか。

 今のはヤバかった……!」


「ど、どういうことです」


「必殺技が当たった直後、

 俺はてめえのエネルギーを

 吸収したのさ。

 全身どこからでも吸収できる。


 このエネルギーを使えば……。

 見ての通り、復活できるのさ!」


 姫から吸収していたエネルギーで、

 令嬢はダメージを回復する。

 必殺技を受ける直前に

 "よもぎ流ドレイン"を使用して、

 回復用の力を蓄えていた!


 更に、姫の技を

 弱体化させるおまけ付きである。


 必殺技による疲労にエネルギー不足。

 姫にはもう、戦う力は残されていない。


「あばよ姫!お前の分まで

 俺が強く生きてやるぜ!」


 令嬢は姫の全エネルギーを吸収する。

 後には何も残されていない。

 場は、令嬢と王子の2人だけの

 空間となっていた。


「勝ったぜ王子!」


「いい勝負だった令嬢。

 君の『弱者への厳しい態度』が

 僕の心を愛で満たしてくれた。

 婚約しよう令嬢」


「俺から言おうと思ってたんだが。

 ……まあいいや」


 こうして令嬢と王子は

 正式に婚約することとなった。

 

 令嬢の婚約は、

 『厳しい愛だけが生き残る』の言葉を

 本来とは違う意味で

 体現するものであった。


 姫の行方不明は

 少しの間、騒ぎになっていた。

 しかし普段から

 霧のように消えていたので、

 すぐに忘れ去られてしまった。


 よもぎは王宮のシンボルとなった。

 よもぎ一族は王宮に出入りして、

 国の科学技術の進歩に寄与している。


 令嬢と王子は、幸せな日々を過ごしていた。

 2人だけで旅行する日もあれば、

 国のためにネズミで実験する日もある。

 よもぎと人間は

 わかり合える関係となっていったのである。

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