本当に君は
「……思ったんだけどさ」
「はい、なんでしょうアイゼン殿下」
わたしはかつらを被り直して、アイゼン殿下を見つめる。
「親友っていっても、君が男の子みたいな格好をする必要は……なくない?」
わたしが、男の子の格好をする必要がない?
「それはいけません! アイゼン殿下」
いつもよりも低い少年のような声を心掛けつつ、首を振る。
「どうして?」
「だって、それは。……それは」
う、ううー、恥ずかしすぎて、できれば理由は言いたくない。でも、言わないと納得できないってアイゼン殿下の顔に書いてある。
仕方ないわね。
女は度胸!
わたしは深く息を吸い込むと一息でいった。
「アイゼン殿下に女の子の親友ができたら、妬けてしまいます!」
「……は?」
「ですから、アイゼン殿下に——」
「いや、聞こえてたんだけど」
聞こえていたのに、あえて聞き返した……ということは、まさかアイゼン殿下!
「やはり、女の子の親友のほうが……」
「ちがうよ、そうじゃなくて」
……そうじゃ、ない?
しぼみかけた気持ちが期待で膨らむ。
「そうじゃなくて、君が嫉妬する、っていう方に反応したの」
「えっ、ええ。それはお恥ずかしながら……。ラノーシャはアイゼン殿下に恋をしていますので!」
そこを忘れられてはこまるわ!
アイゼン殿下はわたしの初恋で、婚約者で、将来の旦那様だもの!
「ふーん、ラノーシャ嬢は」
アイゼン殿下が頬を赤くしながら、こちらへ近寄る。
「ラノですよ! アイゼン殿下!」
「僕に女の子の親友ができると、嫉妬するんだ? ……僕に恋をしてるから」
「ええと、それはラノーシャの話で……いまは、ラノなので——って、アイゼン殿下?」
なんだか、距離が近い、ような?
アイゼン殿下はわたしにどんどん近づくと、かつらをとった。
「ね、ラノーシャ嬢」
「は、はい……」
至近距離でアイゼン殿下の黒い瞳に見つめられると、どうしようもなく鼓動が早くなるし、頬も熱くなる。
「君、本当に僕が好きなんだね」
……え?
「伝わってなかったんですか!?」
「信じてなかったわけじゃないんだけど……。なんか、今ふとそう思ったんだ」
えっ、えええ。
「そうなんですか?」
「……うん」
アイゼン殿下は好かれることに慣れてない、というのも原因にある気がするけれど。
それは、それとして。
「かしこまりました! わたし、もっとわかりやすくアイゼン殿下を溺愛いたしますね!」
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