虐げられる令嬢は、量子力学的恋をする
小説家になろうラジオ大賞4
参加作品
テーマは「量子力学」です。
唯一の肉親である御父様が亡くなられ、これで公爵家は私の代で途絶えることに。
そこに目を付けたのが男爵様。公爵家の財産を目当てに、私に婚約を申し出てきた。
身寄りの無い私は断ることもできず、そのまま男爵様のもとに。
しかし私の扱いはまるで奴隷のよう。
掃除に洗濯、小間使い。
そして今日も、人里離れた先生の所まで薬を受け取りに向かう。
「やあ、いらっしゃい」
細身で眼鏡をかけた温厚な紳士は、遠い世界から量子力学?を研究しに、この地に来たと言う。その合間に薬を調合し生計を立てていた。
先生はいろんな話をしてくれた。
「この世界の魔法は、私の研究している量子力学によく似てるんですよ」
「そうなのですか?」
「粒であり波であり……量子のもつれ……テレポーテーション……」
正直、量子力学というものが私には全く理解できなかった。
ただ、
笑いながら楽しそうに語ってくれる先生を見ているだけで、私の心は安らいだ。
いつしかこの空間は、私の心の拠り所となっていた。
「お前を姦通の罪で投獄する!」
それは突然のことだった。
いわれなき罪により、私の財産は没収された。
男爵は最初からそれが目的。別に驚きもしない。
でも、
「お前を誑かした男も処罰する!」
先生の作る薬や器材など、貴重な物も押収するつもり?
最初からそのつもりで、私を先生のもとへ?
私の身はどうなっても構わない。
でも先生は関係ない。どうにかして、この事を先生に伝えなくては。
私は見張りの隙をつき、地下牢から逃げ出した!
素足のまま外へ……急いで、先生の所に……
と、その時!
目の前に奇妙な銀色の馬車?が現れ、
中から先生が!?
「潮時のようですね。貴女も行きますか?」
どこへ行くのか検討もつかない。
でも不思議と恐怖や不安はなかった。
むしろ先生に会えたことが嬉しくて。
馬のない馬車は、すごい速さで追手を振り切り街を抜け出す。
そして一瞬で国境へと辿り着く。
振り向けば、生まれ育った街があんなに遠くに。
「どうしました? なにか未練でも?」
瞳を閉じて首を横に振る。
「自分が去ればこの国も、粒子の波動に飲まれて消えてしまうでしょう」
それももう、私には関係のないこと。
「どこへ行きますか? 量子力学を使えば過去でも異世界でも」
「先生のお側に居られれば、どちらでも」
先生がかつて語ってくれた量子の話。
一つの粒を強引に引き裂き遠く離しても、何故かお互いは共鳴し合うと……
きっと私と先生も、
量子力学でできているのだわ。