上坂瞳の思惑
俺達が校長先生に呼ばれた次の日、学校に行くと何となく二年生からの視線が気になった。別に睨みつけるとか嫉妬とかじゃない。ただ珍しそうに見られるのだ。多分小林先輩の事が二年生の中に広まったんだろう。
俺達一年生には小林先輩の事では特に何も連絡は無かった。これは大分助かった。クラスの子達から変に聞かれることが無いからだ。いずれは分かるだろうけど。
昼休みになり、
「柚希、お昼食べよ」
クラスの子達が一度瞳さんを見るが、慣れたのか直ぐに視線を元に戻した。女の子達はひそひそと何か言っているけど。
例によって校舎裏の花壇の所に行くと幸い誰も居なかった。瞳さんはランチバックからお弁当を取出しながら
「柚希、一年生は小林の件何か聞いた?」
「いえ、何も」
「そう、二年生には各クラス担任が、小林が退学になった事を話したわ。だから柚希の方も話したかなと思って」
「いえ、ただ朝から二年生の視線がちょっと気になりましたけど」
「そう、小林の傷害事件の事は言ったけど相手が柚希だとは言っていない。誰か漏らしたのかな?」
「そんなもんじゃないですか。でも実害無いから良いです」
「そうなら良いわ。さっ、食べましょ」
「はい、おっ今日は鳥唐揚げにカリフラワーのマヨネーズですか。ひじきも別にある。嬉しいです。瞳さんの出汁卵焼き、味が思い切り好みになりました」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ。柚希の好きな物しっかりと覚えないとね」
「ありがとうございます」
食べながら
「柚希、今週日曜日は私の家に遊びに来るの忘れて無いよね」
「はい」
なんで繰り返し聞くんだろう?
「じゃあ、私の家の最寄り駅に午前十時でどうかな?」
「良いですよ」
その時間なら家族は誰もいない。お母様もお友達と会う事になっている。柚希と二人きりに慣れる。ふふふっ。
「今日は一緒に帰ろうね」
「はい、大丈夫です」
「本当は毎日でも帰りたいんだけど」
「瞳さん、気持ちはとても嬉しいです。でも月、水、金の約束をしてからまだそんなに経っていないですよ。もう少しこのままでいましょう」
「分かるけど…」
そう俺の気持ちがきちんと瞳さんを向く時まで。
お弁当を食べ終わり少し話をしてから教室に戻った。珍しく梨音が他の女の子達と一緒に昼食を摂っている。
亮は俺の席に座って渡辺さんと一緒に食べているというか食べ終わったのか話をしている。何かこの光景良いな。このまま亮と渡辺さんが進んだら面白いのにな。
授業も終わり帰り支度をしていると
「山神君、私陸上の顧問の所行って来る。辞めるかどうか相談する」
「ああ、それがいいよ」
渡辺さんは、スクールバッグを持って陸上の顧問の先生の所に行くのを見て、さて俺も帰るかと思っていると
「柚希、今日も上坂先輩と一緒に帰るの?」
「そうだよ。梨音も知っているだろう。瞳さんと食べた日は一緒に帰る日だって」
「柚希、二人で一緒に帰れる日って無いのかな?」
どういう意味で言っているんだろう。今更よりが戻れるとは思ってないだろうし。でも…無下にはしたくない。
「梨音、いいよ。でも帰れる日は後で考えよ」
梨音の顔がパッと明るくなって
「うん、そうだね一緒に考えよう」
また一歩近づける。もう一度私の部屋に来て貰う。そうすれば今度は…。
俺は、下駄箱に行くと瞳さんが待っていた。大きな声は出さないけど、直ぐに近寄って来て靴に履き替えるといきなり手を繋いで来た。
「瞳さん」
「ふふっ、いいでしょ」
そういう態度を取る彼女と俺への視線は依然として多いが、大分慣れて来た。
私、渡辺静香。陸上顧問の先生と話した。今回の件は一方的に小林が悪いが、事が表立った以上、居辛いと言うと
「渡辺、陸上が好きなんだろう。まだ二年ある、ちょうど冬にも入るから休部という事ではどうだ。来年春から始めるでもいいぞ。春季大会には間に合わないが秋季大会には間に合う」
「しかし」
「なあに、春からは新入部員も入るだろうから今の事なんかみんな忘れるさ」
「…もう一度考えてみます」
「そうしてくれ。将来あるお前をこんな事で辞めさせるのは私としても心苦しい」
先生はいかにも私に優しい言葉を言ってくれたが、本音は分からない。でも突き放されるよりはいい。
私は職員室を出て下駄箱で履き替えてから校庭に出ると坂を降りる直前の山神君が見えた。隣には上坂先輩がいるけど、急いで走って二人の後ろ近くに行った。
二人共笑顔で楽しそうに話をしている。はっきり言って羨ましい。でも今はどうする事も出来ない。待つしかないのかな。
私、上坂瞳。今私の彼である柚希と手を繋いで歩いている。彼が私を好きになって来ているというのは実感しているけど、本当に私だけを見てくれるには至っていない。
本当は私だけを見ていて、神崎さんや最近柚希に接近している渡辺さん達に振り向くような事をさせたくない。
もちろん純粋に友達としてなら良いけど、彼女達は私から柚希を奪おうとしている。だからよそ見させない様にしないといけない。
私は考えた。今の状況を一歩進めさせるにはどうすればいいかと。そして結論としては更に一歩柚希との関係を進ませればいいのだと。
だから今週の日曜日。家族が誰もいない日に柚希を私の部屋に来て貰う様にした。でも何か材料が必要だ。柚希は今の子には珍しくゲームとかしない。だから…。
「柚希、もうすぐ中間考査があるね。準備はしている?」
「何もしていません。一応毎日予習と復習はしているので大丈夫かなくらいに思っています」
「駄目よ。しっかり前準備しないと。一緒に勉強しようか?」
「えっ、いやでも。あんまりそういうのは好きじゃないからいいです」
いきなり瞳さんが腕を絡ませてきた。なんか柔らかい物が当たっている。
「いいじゃない一緒にしよう。一教科でも良いからさ。苦手な教科ある?」
「うーん、特に苦手の教科は無いですけど得意な教科もないですね」
「じゃあ、数学か英語にしようか。こんどの日曜日、どっちか持って来たら?」
「はぁ」
瞳さん、今度の日曜日家に来てと言っていたけど勉強する為なのか?
駅に着くと
「柚希、じゃあまた明日ね」
「はい、また明日」
私、渡辺静香、目の前で山神君と上坂先輩が別れた。どこかに寄るのかと思っていたけど、さっぱりしている。まだ二人の仲はそれほど進んでいないみたいだ。
山神君は口では上坂先輩の事好きと言っているけど、あの様子だとそんなにこだわっている様子はではない。ならばチャンスはある。とにかく二人だけになるチャンスを作らないと。
―――――
瞳さん次にもう一歩進むと言っていたけど、柚希を実際に攻略するのは誰なのかな?
私にも分からん?
次回をお楽しみに
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