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変って行く気持ち


 俺、山神柚希。上坂先輩いや瞳さんか…いやぁでも俺の頭の中ではやっぱり上坂先輩だ。あの人とデートしたなんて…、あんな事はもう無いだろう。

だって俺なんか先輩が相手する人間ではない。多分助けて貰ったお礼のつもりなんだろうな。

先輩と会った次の日、何となく昨日の余韻に浸りながらのんびりと朝を過ごしていた。



 まだ、午前十時を少し過ぎたところだ。今日はどうするかな、亮に電話したが家の用事が有ると言って一緒に遊ぶことが出来なかった。

家に居ても仕方ないし、最近行っていなかった喜多神社にでもお参りするか。


 俺が部屋着から外着に着替えを始めると


 ブルル。ブルル。


 誰だろう、スマホの画面を見ると、あっ上坂先輩だ。直ぐにスマホの画面をタップすると


『柚希、私』

 流石に前の冗談はやめるか。


『はい。どうしたんですか』

『柚希、今時間ある?』

『ありますけど』

『じゃあ、一緒に喜多神社に行ってくれない?最近行っていないし、柚希と一緒にお参りしたくて』

 どういう意味か分からないが自分も行こうとしていた所だ。


『偶然ですね。俺も今から喜多神社にお参りに行こうと思っていた所です』

『ほんと!じゃあ、四十分後、午前十一時に駅でいい?』

『良いですよ』

『じゃあ、駅でね』


 ふふっ、信じられない。彼も喜多神社にお参りしようとしていたなんて。結構私達縁あるのかな。



 先輩が喜多神社にお参り行くのに俺を誘ってくれた全くの偶然だ。この前の事も有るのでボディガードのつもりなのかな。まあいいか、あんな綺麗な人と一緒に行けるのだから。



 俺は、十分前に喜多神社のある駅、つまり学校の最寄り駅の改札に十分前に着いた。先輩の家はこの駅から俺の家とは反対方向へ二つ目、距離的には俺より近い筈だがまだ来ていなかった。


 それから五分程して先輩は改札に現れた。襟のある薄茶のニットに紺色のスリットが入ったスカート、こげ茶のヒールのある靴を履いている。それに簡単なオレンジのハンドバック。


「柚希待ったぁ?」

「いえ今来た所です」

 一応定番の返事はしてくれるんだ。


「じゃあ、早速行こうか」

「はい」


 神社まで駅からさほど掛からない。でも先輩の歩みはゆっくりだ。



「柚希」

「はい?」

「今更だけど、本当にありがとう。そしてごめんなさい。あなたがあの時助けてくれなかったら、私はどうなっていたかと思うと想像しただけでも怖くなる。

 でもその為に君に大変な怪我を負わせてしまった。どうお礼をすれば分からない。君を探し出してからは、色々考えた。どうすればこのお礼が出来るのかと。金銭的な事ではとても合わない。だから…」


「先輩、そんな事考えないで下さい。言ったはずです。お礼は要らないと。あの時偶々俺が喜多神社に行っただけなんです。

 本当は、今から思えば先輩の悲鳴が聞こえて来て、興味半分で亮と一緒に境内に行ったんです。そしたら先輩があんな事になっていて、夢中でしてしまった事です。お礼なんか言われる事ではありません」


 この子は、本当に何も欲しがらないのだろうか。万一私を欲しいと言われても断る事も出来ない位の事をしてくれたのに。


 始めはそんな事も考えていた。言われても拒めない位の事をしてくれたから。でもこの子はそれからといい昨日といい、何も要求しないどころか私に触れようともしない。


 私はそれなりに容姿は良いと思っている。だからあんな事になればそれなりの要求をするのが男の子だと思っていた。


 でもこの子は違った。今日だって昨日の今日だから何か言って来ると思っていたら、自分も喜多神社にお参りに行くつもりだったなんて。私のことなんか微塵も考えていない。

 それはそれで悲しいけど。



 俺達は言葉少ないままに喜多神社の鳥居の側に来ていた。三段ほどの階段を登って鳥居をくぐり両脇にお狐様が鎮座している石畳を少し歩くと階段になる。階段を登り切れば境内に着く。


 先輩が階段の下に来たところでじっと上を見ている。何を考えているのだろうか。そしてそのまま階段を登ろうと足を掛けた所で

 

「きゃっ」


 先輩が足を滑らせた。先輩の顔が階段にそのままぶつかる様な形で前に倒れようとしたところを先輩の二の腕を俺の右手で掴んで強引に引っ張った。

今度は俺の方に倒れ掛かる。それを受け止める様に空いている左手で先輩の右わき腹に手を入れる様な形で押さえたが、そのまま俺は尻餅をついてしまった。

 そして先輩の胸が俺の顔の上に圧し掛かって来た。更に最悪な事にその先輩の背中を抱きかかえる様にしてしまった。




 私は、階段を登ろうとして上にある境内の方を見た。なんとなくあの時の事が脳裏に蘇った。

そんな事を考えながら足元も見ないで右足を踏み出したところで足の裏が階段の角に掛かって滑った。

手を着こうにも目の前は階段。そのまま倒れそうになった時、柚希が私の左二の腕を思い切り引っ張った。

 体がそのまま柚希の方に向いたところで彼が私の体を支える様に右脇腹に腕を差し込んで来た。

 そこまでは良かった。だけど思い切り私の体が彼の方に掛かってしまった為、私の体重を支えきれず彼が尻餅を着くと同時に私が彼の体に覆いかぶさるようになってしまった。




 俺は一瞬何が起こったのか分からなかった。俺の顔にとても柔らかい二つの物が覆いかぶさっている。いい匂いがしている。尻が痛い。

 まさかこれって


「むーっ、先輩。起きて、起きて」


 先輩の背中に回した手を俺の体の脇に移動させて起きようとして余計、先輩の体に密着する事になってしまった。



「ご、ごめん」

 やってしまった。まだ誰にも触らせたことのない胸を柚希の顔に思い切り擦り付けてしまった。急いで立ち上がると


「ぷはー。先輩大丈夫ですか?」

 何故か先輩の顔が真っ赤だ。


「あのう、何処かぶつけたんですか?」

「ぶつけたわよ。私の大切な所を柚希の顔に」

「へっ?」


「嘘よ。起きて。それより柚希こそどこか痛くない?」

「俺は大丈夫です」

 まだ鼻に先輩のいい香りが残っているけど。


 先輩がまだ顔を赤くしているけど

「先輩行きますか?」

「うん」


 いま気が付いたけど、俺達の様子を何人かの通りすがりの人が見て小さく笑っている。やってしまった。



 俺が階段を登り始めると何故か俺の上着の裾を右手で持っている。

「先輩?」

「また倒れるかも知れないし」

「そ、そうですね」



 階段を登りきると境内に着いた。三組ほどの人が順番にお参りしていた。俺達の番になり、礼拝の仕切りに従って済ませると横に退いた。



「柚希は何をお願いしたの?」

「それ聞きます?まあ平穏な日々が過ごせます様にってだけですけど。先輩は?」

「ふふっ、それは内緒」

「…………」

 人に聞いておいて全く。



 階段の下がり口に来ると

「ねえ、手を繋げる」

「なんでですか?」

「だってさっき…」

「駄目です。自分で降りて下さい」

「何で?」

「何でって言われても」

「柚希は私がこの階段を降りている時、躓いて大けがしても良いって言うの」

 めちゃくちゃな論理だ。


「分かりました。下までですよ」

「うん、下まで」 

 私は柚希の左手を握ると

「行こうか」




「先輩、階段降り終わったんですけど」

「えっ、良いじゃない」

「駄目です」

 強引に手を離した。


 なんで、普通こういう事って男の子は喜ぶものじゃないの?


「柚希は私とこうして居るのが嫌いなの?」

「先輩、お願いです。俺は好きとか嫌いとかじゃなくて、手を繋いでいる所を学校の人に見られたら、俺が困るんです。分かって下さい」

「そんなに困る事なの?」


「…先輩はもっと自分の立ち位置を理解して下さい。貴方ほどの素敵な人と俺みたいな何の取り得もない男が手を繋いでいたら、俺が大変な事になります。分かりますよねそんな事」

「でもう…分かった。じゃあ手を繋がないけど、それとこの前の約束は守って」

「約束?」

「二人の時は名前呼びするって」

「え、えーっとなんでしたっけ」

 ここは白を切るしかない。


「瞳って呼ぶ事。私は先輩って名前じゃない。瞳って名前があるの」

 そこを突いてくるか?


「分かりました。瞳さん」

「ねえ、この後は?」

「何も」

「じゃあ、今日も一緒に居よう」

「えっ?!」



 結局、この後一緒に昼食を摂って、公園に行って、喫茶店で話をして先輩の家のある最寄りまで送った。

「柚希、今度は私の家まで送ってね」

「前向きに考える時間を作ります」

「ぷっ、どういう意味?まあいいや、じゃあまた明日学校でね」

「はい」


俺はこの時、これで今日一日が終わると思っていた。


―――――


 柚希、結局上坂先輩と二日連続のデートになりましたね。この後どうなりますやら。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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