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不幸な人間_008

「……神様」

 お願いしますね、と最後に小さく願いを込めてから、私はホゥと吐息を零す。

 あまり長居をしたら、誰かに見られるかも知れない。

 それに、歪ながらも此処は心霊スポットと呼ばれるような場所だ。

(幽霊にも、遭ったら怖い……)

 冷たい風が背中を撫で上げる感覚に恐怖しながら、そろりそろりとその場から離れようとした。その時、

「……っ!」

 不意に、視界の端を白い何かが横切った。

 まさか本当に幽霊が出たのかと慌てて視線を巡らせる。――けれど、其処にいたのは幽霊ではなかった。

 人形のような端正な顔立ち。

 どこか生気のない、危うさにも似た儚さをその身に纏った男。

(吃驚、した……いつの間に……)

 いくら願い事に集中していたとは言え、足音も気配も感じられなかった。

(もしかして、この人もあの動画を見て来たのかな……? それなら何か〝願い事〟があるんだろうし――)

 そうなのだとしたら、願い事をする邪魔はしたくはない。

 早々に立ち去ってしまおうと交差点の中央から出ようとした。その時、

 パパ――――ッ!

「え……っ?」

 それは、目を見張る光景。

 男が現れたのとほぼ『同時』に――息を止めていた時間が動き出したかのようだった。

 今まで影も形も見えなかった道路に、大きなトラックがこちらめがけて突っ込んで来るのが見えた。

「危ない……!」

 私は不幸体質な人間だ。

 でも、それでも目の前で起こりうる悲劇を無視するような、非情な人間ではありたくない。

 手に持っていた荷物をかなぐり捨て、一目散に男のもとへと駆け出す。

 眼球を刺すようなライト。

 耳朶を引き裂くようなクラクション。

 重いブレーキ音。

 一瞬のことが永遠のように感じる世界の中で、どれもがゆっくりと過ぎていく。

 恐怖で止まりそうになる身体を奮い立たせ、男の身体を突き飛ばした次の瞬間――、

 

 ドンッ!


 重い何かがぶつかる音を聞いた。

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