不幸な人間_007
「…………」
四辻交差点の中央は、まるで祭壇のようだと思った。
不気味な静寂に支配された空間。
どこか冷たさを帯びた空気が沈殿している。
私は、自分が幸せになることに対して、不安と罪悪感を持っている。
何故? と問われても明確な答えは出てこない。
ただ幸せになる資格なんて、私には無いのだと漠然と思ってしまう時がある。
それは私の記憶の奥底に沈んでいる、古く錆び付いた思い出が要因なのかも知れない。
でも、それが根本的な原因であると断言できる自信は無かった。
だから、祈る。
「――お願いします――」
だから、願う。
一人きりの世界で私は神に希う。
「不幸体質を治して、幸せになりたいです」
それが自分勝手な願いだとしても。
「幸せになりたいです……」
それが夢見がちな願いだとしても。
「不幸じゃなくて、幸せになりたいです……!」
せめて好きな人と、添い遂げられるような生涯を送りたい。
壱、弐、参、肆――すべての〝作法〟を終えた私は、ゆっくりと綴じていた瞼を開くと空を仰いだ。
頭上には、冷たい光を落とす満月。その光に思わず眼を細める。
もし、空に神様が住んでいるのだとしたら、今の私の願いを聞き届けてくれただろうか。