不幸な人間_005
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生物の気配が沈み、闇が深くなる。
夜が街を覆い隠し、草木も眠る静謐の世界。
そんな日は、月がとても明るく見える。
現に、今日は満月だ。
満月が夜を支配する日は、無性に気持ちが高ぶる。
それは月が持つ神々しさに魅了されてのことだろうか。
それとも、冷たく降り注ぐ禍々しい光ゆえだろうか。
どちらにせよ、満月の日は言葉にできない感情が心の奥底で湧き上がるのを感じる。
ビュウ……ッ。
駅から出たばかりの私の背中を、強い風が後押しするようにグイグイと押す。
目指す場所は、ただ一つ――『願いを叶える心霊スポット』だ。
けれど、ただ其処にそのまま行けば良いというワケではないらしい。
『――こういった場所は、特に〝作法〟が大切なんです』
辿り着くまでにも〝作法〟――つまりは順番が大事なのだと動画でも話していたのを思い出す。
地図上だけで見てしまえば、目的の場所まではほぼ直線。
なのに敢えて右へ左へとジグザグに遠回りをした上で、目的地に行かなければならなかった。
闇に包まれた路を、彷徨うように歩く。
コンクリートの壁、生垣の境、人気の失せた長い長い影の道を、月に見守られながら一人で歩き続けた。