幽冥の月に見初められし者_004
そんな気持ちが表情に出ていたのだろう。
冥一郎さんと視線があったかと思うと、
「変化というなら、どちらかと言えばみことのほうがあるだろうな」
「え……?」
不意に、話の矛先を自分に向けられた。
(わ、私……?)
思わず眼を瞬かせる。
「それって、なにか悪いことですか?」
「……一概に悪いとは言えないが、行動範囲を広げられる、という点においては一長一短だな」
「それって、つまり……」
「……一人でなければ屋敷の外に行ってもいい。気分転換にもなるだろう」
「お屋敷の、外……」
思わず告げられた言葉を反芻する。
勿論、それが嫌というワケではない。
寧ろ眼が醒めてから今まで、屋敷の中――出たとしても庭先までくらいだ。
外の世界がどうなっているのか。
皆が話す幽世という世界がどんな場所なのか。
改めて自分の眼で確かめて見るのもいいと思った。
「極力、出かける時は俺が付き添おう。難しい時はそうだな……みつねとやみねの二人を付かせよう」
「…………」
(やっぱり、まだ一人は危ないよね。当然か)
みつねとやみねの二人も、危ないと言っていたことを思い出す。
やや大袈裟に言い表すなら、〝幽冥の月に見初められた者〟の宿命とでも言えばいいのか――それが、私の身の安全を脅かす要因なんだろう。
「ご馳走様でした」
パタリと手を打ち合わせて食事を終えると同時に、
「ようやく動き出したか。遅いぞ、二人とも」
いつぞやの時みたく、スパァンと音をたてて襖が開かれ、黄泉月が立っていた。
そして私の手の甲に刻まれた〝番〟としての徴を見るとニンマリと少しだけ猫のような怪しい笑みを浮かべる。
「ふむ。これでみことにも話ができることが増えるのう。……良い良い」
「お、おはようございます。黄泉月」
「うむ、おはよう。みつねとやみねも、みことと遊びたくてソワソワして待っておったぞ。起きたばかりで悪いが、顔を見せてやってくれぬか」
「はい、是非」
(まるで妹ができたみたい……嬉しいな)
二人の姿を脳裏に思い浮かべると、つい頬が緩んでしまう。
「えっと、それじゃあ少し席を外しますね」
冥一郎さんと黄泉月の二人に対し会釈をしてから、先に部屋を後にした。




