幽世の護人_018
一つの言葉を紡ぐ度、ズキリと胸の奥が痛む。
一つの感情を吐き出す度、喉の奥が詰まる。
それはまるで、感情という名の海の中に溺れ沈んでいくようだ。
「貴方の優しい感情に堪えられる自信がないんです」
だから、冥一郎さんの顔を見ることすら恐ろしい。
「…………」
言葉はない。
ただただ静寂を噛み締めるかのように、重い重い沈黙が室内を満たしていく。
冷水に触れたものとは別の震えが、身体の芯から湧き上がる。
零れ落ちそうになる涙を堪え腕の中から逃れることもできないまま、息遣いを、気配を猫のように慎重に気取ろうとする。
「……っ」
いったい、どれほどの時間が経っただろう。
不意に、低い声が頭上から降ってきた。
「みことは――幸せを享受するのが怖いのだな」
大きな掌が後頭部に添えられた。
「よく今まで、頑張ってきたな」
そして二度三度、優しい手つきで頭を撫でられる。
(なんで……)
密やかな努力を、認めてくれる言葉。
酷いことを言っているのに――それを拒否することなく言葉をまっすぐに受け止めてくれている。そして、私を認めてくれた。
(なんで……、この人は……)
「そんなに優しいんですか……」
グッと胸元に額を押し当てる。
『頑張った』――たったそれだけの言葉の筈なのに、全てを認めてくれたような気がした。




