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幽世の護人_010

「禍津者の数……それに、周囲への被害はどうなっている」

「はっ。現在、禍津者は澱みの(あな)より五十ほどが湧きだしてはおります。――ですが、前戦に出ております()(おう)殿と(あさ)()殿によって抑え込んでおります。今のところ、他の魂魄(うつわ)への被害は軽度であるとの報告が届いております」

(あな)の先……元を絶たなければ次々と溢れ出すだろうな」

 視線の先に拡がる、骸の海。

 その中心に佇む、二つの影があった。

 二人は抜群のコンビネーションで、次々と(あな)から這い出てきた禍津者を葬っている。

 その姿はさながら舞踏を披露するかのように鮮やかで、力強い。

「頼もしい限りだな」

「そうですね。お二方が前戦に出て下さるお陰で、我々のほうも安心して避難誘導ができます」

「……そうだな。魂魄達の誘導は頼んだ」

 白霊獣から降り立ち消し去ると、ひと通り禍津者を殲滅し終えたのか、わずかばかりの静寂が周囲を満たす。濃い血臭を掻き分けるように進みながら、二人の傍へと歩み寄った。

「ン? 旦那じゃあねぇか。なんで此処にいる?」

「僕ら二人だけでも、この程度なら充分なんですけどねぇ」

 先んじて来ていた二人の青年が揃って声をあげた。

「……というか、旦那。例の娘っ子を一人にして来たんですか。まさか()()に連れてきちゃあいないでしょうね」

「そうそう。一人っきりは可哀想……ってねぇ」

 荒い口調に、大太刀を軽々と扱う青年――蘇芳。

 そしてその背後で人当たりの良さそうな笑みを浮かべたまま一対の太刀を振るう青年――浅葱は思い思いにみことのことを口にする。

「あんなんじゃあ、血を見ただけでも卒倒するんじゃねぇか」

「そうだねぇ。それに状況を説明するだけでも大変そう」

「それよか旦那はもうシたんですかい?」

「そうそう。それなら余計、置いてきちゃ可哀想でしょう? せっかくの特別な〝メ〟なんだから」

「……。お前達……」

 出逢って早々にソレかと内心呆れてしまう。

 それでも口だけでなく、きちんと手も動かしているのだから文句を言うつもりはない。

 軽口を言えるだけ、まだまだ余裕があるのだろう。

「随分と酷い有様だな。戻ったら念入りに邪払いをしないとな」

「まあ、毎度のことでさァ」

「仕方ない……っていうか、ねぇ? それは冥一郎さんも同じでしょう。こうしてわざわざ来るんですから」

「……そうだな」

 随分と禍津者を狩ったのだろう。二人の全身は、返り血で汚れている。

 けれどそんなことを気にした様子もなく、浅葱は戦場に似つかわしくないヘラリとした軽い笑みを浮かべながら問う。

「それとも、僕らの腕……そんなに信用ありません?」

「そんなことはないさ、浅葱。いつも助けられている。蘇芳も怪我はないようで安心した」

「当然。このくらいの禍津者なんざ、楽勝でさァ」

 自信の現れの通り、蘇芳と浅葱は仲間内でも一番、二番の討伐数を競っている。

「……にしても、今日はまた一段と濃いですよ?」

(あな)の先に行くにしても、骨が折れそうでさァ」

「そこは、お前達二人なら切り開いてくれるだろう」

 心の底からの言葉――嘘偽りのない本心。

「まぁ、旦那に言われるまでもなくそうするンですがね」

「だねぇ」

 言うや否や、蘇芳と浅葱は刀を構え直す。

 二人の動作と同じく、こちらも帯刀していた得物を鞘の中から解き放つと正眼に構えた。


「ギィぃイイ――――――――!」


 直後、悲鳴のような声を轟かせながら禍津者として顕現したその姿は、一見すると蜈蚣(むかで)に近い姿をしていた。扁平ながらも黒光りする硬殻。連なったその一つ一つには赤みを帯びた細い節足がズラリと見え隠れしている。そして頭部に目を向ければ、赤い血を滴らせた牙をガチリガチリと打ち鳴らし不協和音を奏でていた。

「――行くぞ」

 言葉と同時に、窠へと跳んだ。

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