表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/68

幽世の護人_007

 ある山の麓に拡がる樹海。

 そこは、現世でも自殺の名所として有名な場所だった。

 鬱蒼とした木々に覆われた樹の海原は、昼間であっても常に薄暗く空気は湿っていた。

 樹海の入口。そこに辿り着くためには、決められた道を通る必要がある。

 けれどその道行く先々には、必ずといっていいほど目につく物が設置されていた。

「……。また同じ看板」

 一つの看板の前に立ち止まると、その文言を呟く。

「思い留まりましょう、か……」

 命の尊さを説き、自殺を防止するためなのだろう。

 より目に付きやすいよう看板という形で、設置がされている。

 だが残念ながら効果的かと言えばそうではないらしい。

 何故なら森の至る所には、死の残り香が色濃く漂っている。

 自殺を行使するために用いたと思われる道具の数々。

 土や枯れ草の上に混じった、もとは人間であったであろうモノの残影。

 人の身では解らぬであろう死の形。

 錆びた鉄。

 湿った土と草木。

 腐敗した骨肉。

 澱んだ水。

 様々な残り香が、森の中には渦巻き、そして抜け出せぬ死の螺旋の中で藻掻いている。

――山上他界。

 古来より死んだ魂は山々に向かい、他界……つまりは〝(あの)()〟に通じられた場所に行くと信じられてきた。山を神聖視し、現世の人間がそう説くのも無理はない。

 山も、海も――広大な自然物には確かに宿るモノはある。

 人が神だと崇め奉るモノも。

 人が悪霊や妖怪だと蔑むモノも。

 だが、そんなモノに大きな差異はない。

 善性も悪性も、結局のところ人の身の上での価値観で線引かれているだけで、そこに宿ったモノらにとっては微塵も関係のないことなのだから。

「ひぃ、ふぅ、みぃ……やはり簡単に連れて行けるものでもないか」

 一つの入口から樹海の奥に進むに連れ、闇がいっそう色濃くなっていく。

 風のさざめき、影の揺らめき。

 そしてそれに混じって身体に纏わり付いてくる魂魄に瞳を細めた。

「お前たちの居場所は、此処ではない。……それは充分理解しているだろう」

 幽世にも行けず、現世に留まることしかできなくなった残り滓。

 そういったモノに逃げ場はない。

 意味も理由もなく積もり、留まる。

 その様は、粉雪が降り積もりやがて古家や木々を押し潰すのと似ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ