幽世の護人_006
(いつか、私にも判る時が来るのかな……)
そんなことを漠然と思いながら、私はみつねとやみね、二人と共に冥一郎さんの帰りを待つしかなかった――。
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水墨の色よりも暗く。
夜の闇よりもなお深く。
幽世の空気が、重く身体にまとわりついてくる。
ドロドロとした粘性を帯びた瘴気が、まるで括り紐のように首元を緩く締め上げていく。
自分達が幽世と呼ぶこの世界は広大だ。
向かう方角によって、情景や空気が一変し、一つ処として同じ場所は存在しない。
ただ先代よりも遙か昔――久遠より〝護人〟の役目を担ってきた者達によって築き上げてきた知識を、情報を武器としてきた。言葉を交わし、酒を交わし、血を交わし――脈々と受け継いできた数多の武器を水泡に帰するつもりはない。こうして〝護人〟の役目を継いだ時から、覚悟している。〝護人〟としてのあり方を――。
「随分と奥まで来たな……」
一呼吸するたび、肺腑の奥が濁るような錯覚を覚える。
だが、その感覚は間違ってはいないだろう。
これから向かう場所が、よりいっそう不快で醜悪な場所であることは違いないのだから。
どれだけ清らかな水も、留まり続ければ腐れ水に変化するのと同様に、幽世も澱んだ場所はある。
そしてその澱みの吹き溜まりこそが、他の魂魄を害する要因となる。
まるで現世と合わせ鏡であるかのように、現世で起きたことは幽世にも影響を及ぼすのだ。
殺人などの生死に関わる事柄。
他者を怨み妬むような負の感情。
悪意のない、悪意。
無差別的な感情。
そんな言葉に言い表し尽くせないほどの情報が現世から流れ込んできては、澱みの吹き溜まりとなる。
だから、だ。
あの日も――吹き溜まりの要因となりうる場所に赴いたのだ。




