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夜を纏う男はかく語る_017

 本来であれば、それは艶やかな薄紅色なのだろう。

 けれど今は、月光りに照らされ花弁は白く輝いていた。

――ザザァ……!

 一陣の風が巻き起こると、その風にのって桜の花びらが雨のように降り注いだ。

「……。気に入ったか」

 よほど私が嬉しそうな()()をしていたのだろう。

 冥一郎さんが囁くように問いかけてきた。

「綺麗です、凄く。私、花では一番桜が好きなんです。だから、見られて嬉しいです……!」

「それは良かった。そんなに喜んでくれるとは、連れてきた甲斐がある」

 コクコクと何度も頷きながら、目の前の光景を見つめる。

 何本も植えられた桜木。

 月のように丸い泉水。

 剪定が施された庭木の数々。

 そこはまるで、名のある日本庭園のようだった。

「桜なんて、咲く季節じゃないのに……」

「『(うつし)()』と『(かくり)()』では時間の流れも大きく傾いでいるからな」

 そう言うと、冥一郎さんは痺れた脚を労るように、優しく縁側に降ろしてくれた。

「綺麗ですね……」

「そうだな。それに、この時分はいい風が吹く。月明かりで他の花々の姿も良く見えるだろう」

 冥一郎さんの言うとおりだった。

 縁側から見える庭は、一面色とりどりの花が見える。

 そよぐ風にのって、仄かに花の匂いが届くからだろう。

 ほぅと小さく息を吐き出した。

「…………」

「……」

 自然と、言葉が途切れる。

 最初の頃のような気まずい気持ちは大分減ってきていた。

 チラリと、冥一郎さんの横顔を見つめる。

(不思議な人だな……)

 容姿は端麗で、繊細で、まるで人形のようだ。

 けれどその口から発せられる声や言葉の数々、仕草などは外見とはまるで違う。

 活力とでも呼べば良いのだろうか。

 何か大切なものを決意しているような不思議な強さを帯びている。

(今までの人生の中で、逢ったことのない雰囲気の人……)

 恐怖を煽るような感覚は一切感じられない。

 優しくて、でもどこか不器用で繊細で、感情(きもち)を無理やり押しつけようとする素振りもない。

「風が少し強いな……。寒くはないか?」

「は、はい……! 大丈夫です」

 今だってそうだ。

 私が一度に話を聞いて混乱してしまわないよう――考えて整理する時間を与えてくれている。

 何故そんな時間を与えてくれるのか。

 それはもしかしたら他人に流されるまま物事を決めたりせず、思考放棄をすることなく自分で選択肢を決めて欲しいと願っているからだろうか。

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