夜を纏う男はかく語る_014
「…………」
私は自分でも気づけないほど、憔悴してしまっていたのだろう。
閉口し俯くことしかできないままでいた私を見かねてか、不意に声が投げかけられた。
「今日のところは一先ずこのくらいにしよう」
「そうか? 延ばした所で、結果は変わらんじゃろう」
さらに言葉を続けようとしていた黄泉月の言葉を、不意に冥一郎さんが制した。
「あまり多くを話しても、みことの負担になるだけだ」
「……。仕方がないのう」
渋々言いながら、それでも意外とあっさり引いた黄泉月を横目に見つつ、私は正座によって痺れていた脚をようやく崩すことができた。
「……疲れさせたか」
「少し……だけ、です」
冥一郎さんと視線を合わせることができない。
自分の置かれた状況。そして――魂魄としての今の現実をどう受け止め、行動していけば良いのだろう。頭の中がグルグルと言葉にできない言葉で埋め尽くされていく。
「……っ」
気づけば、喉がカラカラに渇いていた。無自覚のうちに緊張していたのだろう。
既に冷めたお茶に口付け一息つく。どんな言葉を交わしていけばいいのか。
朝の出来事にはただただ驚くことしかできなかったが、魂魄という自分の今の状態がどれだけ脆く危ぶむものなのか。あまりにも認識と実感が乖離している。
「冥一郎さん。あの――」
言葉を紡ごうとして、ふと躊躇する。
何を話そう。何を訊こう。自分がどんな言葉を紡ぐことが相応しいのだろう。
「…………」
今どんな言葉を紡いでも、きっと空虚なものになってしまいそうだった。
そんな私の胸中を察したのか、
「……せっかくだ。気分転換でもしようか」
「……はい?」
次の瞬間、フワリと視線の高さが変わった。
「え? あ、の……!」
気づけば、抵抗する間もなく冥一郎さんの手によって抱き上げられていた。




