表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/68

夜を纏う男はかく語る_010

「四季様。お迎えに上がりました」

 着付けが終わってから、すぐのこと。

 着物に不慣れでよたつきながら歩いていた私のもとに、一人の女性がやって来た。

「冥一郎様と黄泉月様がお待ちです。――どうぞ、お手を」

「は、はい! すっ、すみません」

 差し出された女性の手を支えにしながら、板張りの長い廊下を歩いて行く。

 縁側から差し込むのは、仄かに灯る行燈と外から降り注ぐ月の冷たい光。

 歩いていくと、やがて中庭らしき開けた場所に出た。

 そこから空に浮かぶ寂しげな月が見える。

(あれ……?)

 ふと、気づく。

 いつの間に、夜になったのだろう。

 朝の知らせを告げる鳥の鳴き声も聞こえていた筈だ。

 着付け部屋に移動する時は、別の廊下を通ってきたから、外は見えなかったけれど……自分でも気づかないうちに時間が経ってしまっていたのだろうか。

「…………」

 言葉に出来ない違和感。そして、何かを忘れてしまっている。

 それはずっと起きてから考える余裕がないからだと思っていた。

 でもそれがもし、別の要因があるのだとしたら――。

(私は……どうして〝此処〟にいるの)

 その疑問に、ようやくぶち当たる。

 ずっと目を背けていた疑問。それがゆっくりと鎌首をもたげる。

(私は……なんのために〝此処〟にいるの)

 ザワリと胸の内側を荒い舌で舐めあげられたような悪寒が奔る。

 このまま逢うべきではないのかも知れない。

 そんな不安から女性に質問をしようと声をかけようとした。刹那、

「四季様をお連れ致しました」

 無情にもその場所へと、私は辿り着いてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ