夜を纏う男はかく語る_008
結局、あれよあれよとしているうちに時間は過ぎていき――気づいた時には昼近くの時間になってしまっていた。
恥ずかしさの余韻から脱することができず、冥一郎さんの胸元にひっついたまま、顔を上げられずにいると、ふと縁側のほうからトタトタと軽い足音が近づいて来るのが聞こえた。
そして音が部屋の前で止まると同時に、襖がスパァンと思い切り開け放たれた。
「いい加減起きぬか、冥一郎……!」
有無を言わさずに入ってきたその人物は、随分と目立つ外見をしていた。
銀糸を思わせるほど繊細な白い髪。そして熟れた柘榴のように赤い瞳。
華奢な肢体は陶器のように白く滑らかで、冥一郎さんとは正反対の精巧さをその身に宿していた。
「やはり〝メ〟を抱え込んでおったな……。朝になってもお主が一向に顔を見せんから、不知火が心配しておったぞ。こンの阿呆めが」
「……朝から小言はやめてくれ。黄泉月」
先ほどまでとは違う、やや堅い声で冥一郎さんは言葉を返す。
冥一郎さんが身を起こすのにつられて私も起き上がると、慌てて乱れた寝間着の襟元や帯を直した。
「――さて、〝メ〟よ。冥一郎のせいでろくに食事も摂れておらぬじゃろう。別室に色々準備をさせておる。用意が出来たら来るがいい」
「え……。は、はい」
冥一郎さんが黄泉月と呼んだ青年。その言葉使いや外見に圧倒され、私はコクリと頷くしかできなかった。




