表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼炎の反逆者  作者: ぽんかん
2/3

第0,5話

2021年 8月2日


久しぶりに本屋に来ていた。


数学の参考書を買うためだ。だが、本屋はいつにもまして、人が多い。


俺は、本屋が入っているショッピングモールでイベントか何かをやっているのだろう。と考え目当てのものを探すことにした。




「あ、見つけた。」


数分後、俺は、やっと目当ての参考書を見つけ、棚から引っ張り出していた。


案の定、人ごみのせいで、見つけるのにだいぶ時間がかかってしまった。


取り出してる間、一瞬だけ、視界の端に変な黒ずくめの変な奴らが映った気がした。




棚から参考書を取り出し、もう一度、変な奴らがいたところに目を向けてもそこには、誰もいなかった。


「…見間違いだ」


俺は自分にそう言い聞かせ、レジに向かった。




レジに向かっている時も、見間違いと言い聞かせたはずの黒い集団を時々思い出してしまう。


さらに異常な人ごみのせいで、棚に向かったときよりも時間がかかってしまった。


この時初めて、別の日に来ればよかったと思った。




レジ前に着き、支払い列に並ぼうとしたとき…


「この場にいる全ての人よ。聞いてくれ。私たちは今から儀式を始める。」


さっきの黒いローブを着た三人組が現れ、こんなことを言い出した。


当然、場は今までにまして騒がしくなる。


「本当にいたのかよ…」


俺は人ごみに紛れながら、ボソッと呟いた。


連中は、見た目もだが、それ以上に言動もイカれているわけだ。よく見ると連中は人が一人すっぽり入りそうな大きな袋を持っていた。


俺は極力視線を奴らのいる方向に向けないようにした。


次に連中の一人が発した一言で、俺含め、その場にいたほとんどが戦慄する。


「五人ほど私たちに協力してもらいたい。誰も協力しないなら、この場にいる全員を殺す。」


連中は、「そんなことはしたくないんですが。」と付け加える。


「は?」




俺の口からはそんな短い言葉が漏れていた。


何を言ってるんだこいつらは?ほんとに頭がおかしいのか?それとも高校生くらいの奴がイタズラみたいなことをしてるのか?訳が分からない。


こんなことなら何も買わずに帰ろうと思い、参考書を戻しに行くことにした。




そのときだった辺りに騒がしい笑い声が響いたのは。


「やるやる!!俺らそのイベント参加するわ!!」


「お前、そんなに笑ってやんなよ!!まじで儀式するんだから!!」


茶化すような二人組の高校生が参加すると言った。




「お前ら動画撮影頼んだぞ!!」


二人組は参加しない残りのメンバーにそう言い残し連中のほうに歩いて行った。


どうやら二人が参加し、その状況を撮影して仲間内で見せ合うつもりのようだ。


この空気感でそのノリの良さを発揮しないでほしい。


俺は心の底からそう思う。


「わかった。あと三人」


それに対して連中は声色の一つも変えずにそう答えた。




もう俺は帰りたかった。参考書なんかいらない。イタズラでも何でもいいから早く終わってほしかった。




――だが、そうは問屋が卸さない。




「おい。そこの二人。」


今まで無感情だった奴らの声に、怒りが宿った。


「今、二人で帰ろうとしたか?」


その声は、本屋の出口付近にいる、女性の二人組に向けられていた。


「いいじゃないですか!!私たちにも用事があるんです!!」


数人の客がそれに便乗して「そうだ!!」と言った。しかし


「それは出来ない。しかし、丁度いい。あなたたちにも儀式に参加してもらおう。」


と、答えた。


刹那、女性たちの背後に、集団のうちの一人が現れた。俺は状況が理解できずに、我が目を疑った。


「さぁ。こちらへ。すぐに終わります。」


そう言うと、奴は二人の女性の腕をつかみ、強引に集団のもとに連れて行った。まるで二人の反対の声も聞こえていないようだった。


「あと一人」


奴は再び何の感情の無いあの声に戻っていた。




連中が儀式とやらの人員募集を始めてから、30分くらい経っていた。


途中何回か、若い店員さんが止めに来たが、意味はなかった。


この場の全員が「早くだれか手を挙げて終わらせろよ。」と思っていただろう。


だが、儀式の人員募集は突如幕を下ろす。


「私、参加します」


俺の後ろにいた、大学生くらいの女性が手を挙げていた。


「おい春香。ほんとにやめとけよ。」


横では、彼氏っぽい男性が止めようとしていた。


「いいじゃん。私が参加しないとこの場の全員が死ぬ。そうでしょ?」


女性は素っ気なくそう答えた。


「わかりました。では、彼氏様も近くに来たらどうですか?心配なのでしょう?」


「わかった。」


彼は連中を睨みながら、そう答えた。そうして、二人は俺の横を過ぎていった。




準備は整ったらしい。


「まずは、集まっていただいた5名様。誠に感謝いたします。」


深々と頭を下げる黒ずくめ。面白そうに写真を撮る高校生たち。心底、嫌そうにする二人組。なんとも思ってなさそうな彼女と心配そうな彼氏。


黒ずくめ三人。参加者五人の儀式が幕を開ける。




「観客の皆様は、最後までこの儀式を見届けてください。そして結末を見届けてください。」




「では、始めましょう。」


「観客の皆さんは、少し下がっていただいてもよろしいでしょうか?そして参加者の皆さんは円を作ってください。」


観客も参加者も、言われたとおりに動いた。




「ご協力感謝します。では、主役の登場です。」


そういったとき連中のうち一人が、例の大きな包みを開いた。


そこから出てきたのは、人間だった。いや、違うな。かつて人間だったものだ。


当然こんな物が出てきたせいで会場である本屋は大騒ぎだ。


会場は腐臭で充満した。こんなものを見せられたら、皆もう普通じゃない。


特に参加者の反応は凄い。




さっきまであんなに自信満々だった高校生は、「やばいんじゃね?」「やめとかね?」など、焦りをあらわにした。


女性二人組は、「もう帰らせてよ!!」と尋常じゃないパニックを起こしていた。しかし、最後に参加した女性は何も思っていないようだった。


もう、会場は阿鼻叫喚の嵐だ。


「静かに!!これより儀式を始めます!!」


奴のこの言葉を聞いた瞬間、群衆は一斉に黙った。


「では、見届けてください。この物語の結末を」


俺はその言葉がひどく不気味でしょうがなかった。




「パンッ!!!」


奴らが一斉に手をたたいた瞬間。


「足が動かねぇ!!」


「もう!!なんなのよ!!」


参加者は完全にパニックに陥っていた。調子に乗っていた高校生も片方は目に涙を浮かべ、もう片方は失禁していた。女性二人は喚き散らかした。




そして、連中はぶつぶつと何か呪文のようなものを唱えだした。


「戻り給え。赦し給え。怨み給え。」


「戻り給え。赦し給え。怨み給え。」


「戻り給え。赦し給え。怨み給え。」


「回帰し給え。」


そう奴らが唱え終えた瞬間。参加者たちは悲鳴を上げはじめる。


「助けてくれ!!」


参加者はみるみる痩せていった。まるで血液でも吸われているかのように。




――パタン




その音と同時にすべての明かりが消えた。


「停電か?」


そして群衆の悲鳴が一段と大きくなった。




次に明りが灯ったとき、参加者は全員死んでいた。


円の中心にあった死体があった場所には、一人の男が座っていた。


彼はあたりを見回した後、高校生の死体の上に腰を下ろし、言った。


「やはり、人間は喧しいな。とりあえず。黙ってくれ。」


彼がそう発した瞬間、全員が黙った。いや、声が出なくなったというべきだろう。




だが、それは、一人を除いてだった。


「あんた、春香に何をした!!」


「俺は何もしてないが?」


それはあの女性の彼氏だった。


「俺の可愛い部下たちが俺を蘇らせるためにしたことだ。許せ」


彼は冷ややかにそう告げる。


「何故、あんたみたいな死に損ないを蘇らせるために、春香が死なないといけないんだ!!ふざけるな!!」


彼はすっかり細くなった彼女の亡骸を抱え、叫ぶ。


「貴様!!何を言う!!」


その言葉を聞いた、連中の一人そう返した。


「まぁいい、言わせておけ。所詮、人間の叫びだ。」


「――しかし、そんなに彼女と一緒がいいなら、送ってやろう。彼女のもとへ」


そういった後、男は指をパチンと鳴らした。


その瞬間、彼の体が燃えた。そして短い慟哭のあと彼は燃え尽きた。




この場の全員が今起こったことを受け止められずにいたその時。


「警察だ!!おまえたちだな。テロを起こした集団というのは!!」


何十人もの武装した警察官が入ってきた。


「おい!!誰か通報したのか!!」


連中のうちの一人が吠えた。


そのとき


「お前たち人間には、心底失望した。もういい。全員殺す」


男は立ち上がってそう告げた。さっきのように指をパチンと鳴らしたその時、あたりは爆炎に包まれた。


もう、俺の耳には、怒号と悲鳴の入り混じった声と炎の燃える音だけが聞こえる。


俺はパニックになった人々に何度も突き飛ばされた。最後に俺は白い何かの上に倒れ俺の意識は途絶えた。




2022年 8月18日


目覚めたとき、そこはしらない天井だった。


「藤井!!やっと金橋が起きたぞ!!」


横では友達の伊藤がそう言っていた。どうやらここは病院のようだ。


ベットの横にあるカレンダーを見るとあの日から、二週間近くたっていた。


俺は事件の内容を尋ねようとした。


しかし


「俺たちはとりあえず、出ていくよ。用事がある人がいるみたいだから」


伊藤はそう言って病室を去った。


次に入ってきたのは、白いコートを羽織り、顔全体を覆う狐の面を付けた青年だった。


彼は入ってくるなり、俺の前に腰を下ろし、こう聞いた。


「僕の名前は蒼炎。単刀直入に聞こう。あの日君は何を見た?あの場所で何が起こった?」


























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ