7話
幸せな夢を見た。力強い泣き声。ぐったりとベッドに横たわる私。でも幸せな気持ちでいっぱいだ。ベッドの側には産まれたばかりの赤ちゃん抱いた嬉しそうな顔のギルベルト様。ギルベルト様は私に「よく頑張ってくれた。ありがとう」と言って、手を握ってくれた。そこで目が覚めた。
私は涙が出てきた。だって、そんな未来は来ないもの。私はこの別邸で一人で暮らす。ギルベルト様は愛している人と公爵邸で暮らす。
それでいいじゃない、ルイーゼ。政略結婚に何を望むの?きっとギルベルト様は私を妻として尊重してくれる。結婚記念日くらいは一緒に過ごしてくれるかもしれない。多少の浪費をしてもきっと許してくれる。
ドアが開く音がしてハンナが入ってきた。
「おはようございます。
殿下、どうなさったのです?どこか痛いのですか?」
「夢見が悪かっただけ。夢見は悪くなかったかな?ちょっといろいろ思うことがあったの。大丈夫よ。」
私はなるべく明るい声でそう言った。
怒った様子のハンナ。
「いくら殿下が第三王女で政略結婚だからと言っても、別邸に住まわせるなんてあまりにも殿下を馬鹿にして軽んじています。ヴェストニアに対する侮辱です。ケプラー子爵はこのことをご存知なのでしょうか?今日、ケプラー子爵に面会を求めましょう。」
怒っているだろうに、ハンナの声は泣き声だ。それだけ怒っているのかも。ロッテは手を開いたり握ったりしながら見ている。
「いいのよ、ハンナ。私はあなた達さえいてくれれば。ロッテ、過激なことは考えないでね。
そろそろ起きるわ。」
ハンナとロッテは私を着替えさせた。
朝食を食べに食堂に行く。マーサが持ってきた朝食のお皿は、昨日ロッテが言ったように美味しそう。これ、この匂いは絶対美味しい。ぐう、とお腹が鳴った。マーサが嬉しそうな声をあげる。
「まあ、そんなふうに期待してもらえて、料理人も喜びます。
朝、公爵邸に使いを出しましたから、もうすぐギルベルト様がいらっしゃると思います。」
私のおなかが鳴ったのがそんなに楽しいの?お行儀が悪いのをそんなに喜ぶのね。それに、ギルベルト様は来ないわ。だって、ここには私一人で住むんだもの。一緒に選んでなんかくれない。
涙が落ちてきた。
「マーサ、どうして公爵邸に使いなんか出したの?ギルベルト様はここには住まないのだから、ご迷惑じゃないの。」
泣きながら言った。マーサは不思議そうな顔をする。
他のメイドがギルベルト様が到着して応接室にいることを知らせてきた。
「殿下はお食事中ですから、待って、」
「いえ、お会いするわ。後で食べるから、そのまま置いておいて。冷えても構わないから。温め直さなくてもいいから。」
ハンナの返事を遮り、私は応接室に行った。
応接室にギルベルト様はいた。私の夫となる人だけれど、まだ結婚していないから王女の私の方が身分は上。だから、立っている。
「おはようございます。」
「おはようございます。どうぞ、お掛けになってください。
あの、申し訳ございません。お呼びだてしてしまって。ギルベルト様はこのお屋敷に住まないのに、一緒に選んで欲しいなんて、ご迷惑ですよね。」
「はい、今は結婚していないので当然こちらのお屋敷に住むことはできません。
ですが、私と一緒に調度品を選んでくださると聞いて嬉しく思っています。」
優しい言葉。そうね、自分の方から「ここで一緒に住まない」なんて言いづらいわよね。私の方から言うべきよね。
泣きそうなのをグッと堪える。
「いえ、結婚してからも一緒に住まなくても私は構いません。」
私がそう言うと「一緒に住まない、、、」と非常に驚いたようだった。その顔は嬉しい驚きではなく、とてもショックを受けたようだった。
私はとても不思議なものを見ているようだった。どうして驚いてショックを受けているの?ギルベルト様にとって、私の方から「一緒に住まない」と言った方が都合が良いのではないの?
私は話を続ける。
「その、ギルベルト様は公爵邸で生活なさるのですよね。私は今の調度品で不服はないので、大丈夫です。本当にごめんなさい。お呼びだてしてしまって。」
しばらく沈黙の後、意を決したようにギルベルト様は話し始めた。
「殿下、お願いがございます。」
「なんでしょう。」
嫌だ、早く部屋に帰りたい。聞きたくない。でないと堪えきれなくて、泣いてしまいそう。
「政略結婚ですし、王族でない私と結婚すれば殿下は王族ではなくなります。その上、私はローゼニア。殿下にとって意に沿わぬ結婚であろうことは承知しております。
けれど、この結婚は両王家が関わっており、今更元に戻すことはできません。
ですから、形だけでも私と結婚して欲しいのです。もう二度と、私はこのお屋敷には参りませんから。」
そう言って席を立った。
もう、二度とギルベルト様はこのお屋敷に来ない!覚悟はしていたけれど、私は堪えきれなくなって泣き出した。大声で泣いた。ギルベルト様は私が泣き出したので一瞬戸惑ったみたいだったけれど、礼をして、くるっと向こうを向いた。
行ってしまう!もう二度と会えない!ルイーゼ、それでいいの⁈
「待って!行かないで!」
ギルベルト様は足を止めた。
「形だけなんて嫌!私はギルベルト様が大好き!ギルベルト様と結婚したい!一緒に住んで欲しい!」
それだけ言って、また、泣き出した。
涙だけでなく、鼻水も出ている気がする。構わない、構うもんか。だってギルベルト様とは二度と会えないんだもの。私みたいな平凡で不細工な子なんて、忘れられるに決まっている。だったら「鼻水出して泣いていた不細工王女」と覚えてもらっていた方がマシ。少なくとも、忘れないでいてもらえる!愛する人と「あの鼻水女」と馬鹿にされて笑われるかもしれないけど、忘れられるなんて、絶対イヤ!
「まったく、あの時はどうしたら良いのか途方にくれましたよ。」
「奥様のお顔スッゴイ不細工で、旦那様固まってましたもん。」
今でもハンナとロッテはそう言って笑う。でも、私はそのくらい追い詰められていたのだ。
私にハンカチが差し出された。真っ白い刺繍の入っていないハンカチ。
「涙を拭いてください。互いに何か誤解があるようです。話し合いましょう。」
ギルベルト様がハンカチを差し出してくれていた。私がハンカチを受け取ると、ギルベルト様はもう一度椅子に座った。
ギルベルト様は私が泣き止むのを待ってから話し始めた。
「『私と結婚したい、一緒に暮らしたい』と先程仰いましたが、それは殿下の本当のお気持ちでしょうか?」
私は「ん」とうなずく。
「良かったです。私もその様に思っておりました。」
ギルベルト様は安心したように笑った。心の底から安心したような顔。その顔は忘れられない。
私は気になることを聞いてみた。
「あの、でも、このお屋敷に一緒には住めないですよね。」
「そうですね。まだ、結婚していないので。」
結婚していないから一緒には住めない。そんなのは当たり前。でも、行儀見習いで早めにその家で暮らすこともあるみたいだけどそんな話は聞いていないし、公爵家には夫人はいない。それに、そうならば私はこのお屋敷ではなく公爵邸で暮らすはず。でもギルベルト様はこのお屋敷に私が「しばらく滞在」「結婚すれば住む」と言ったし。
「いえ、そうではなくて、結婚しても一緒には住めないですよね。私はこのお屋敷に住むわけだから。」
かなり困惑した顔のギルベルト様。イケメンはそんな顔も絵になるなぁ。
「それは私はこのお屋敷に住んではいけないということでしょうか?」
「そんなことはありません。でも、ギルベルト様は結婚後も公爵邸に住まわれるんですよね。」
「ええ、いずれは。何もなければ、私がノーザンフィールド公爵になりますので。」
会話としては成立しているのかも知れないけれど、微妙に話の内容が噛み合ってない気がする。
ギルベルト様もそう思われたみたい。
「単刀直入にお訊きします。殿下は本当は私との結婚がお嫌なのでしょうか?それで結婚後も別々に住むと仰っているのでしょうか?もしそうなら、先程、申し上げたように、私は殿下と形ばかりの夫婦になって、このお屋敷には二度とまいりません。だからといって、ローゼニアとヴェストニアが疎遠になることはないとお約束します。
そうではなく私に降嫁しても良いとお考えなら、何故別々に住むと仰っているのか理由をお聞かせ願えませんか?」
まっすぐこちらを見て、そう訊いてきた。
私は困ってしまった。だって、そうでしょう?結婚に際して私のこと、身分とか待遇とか、後々問題にならないように事細かに決めてあるはず。その中には私がどこに住むかもあると思う。その決め事の中に「ルイーゼはジョンストン通りのお屋敷に住む」とあれば、いくら私が「ギルベルト様と一緒に住みたい。ギルベルト様の妻なのだから公爵邸に住まわせろ」と言っても無駄だし、決めたことを反故にしろと言っているのと一緒だ。どう言ったら「私は決められたことを反故にしたいのではなく、ギルベルト様と結婚したら一緒に住みたいだけ」だとわかってもらえるのかしら?
ギルベルト様はまっすぐ、こちらを見たままだ。ヴェストニアで論述を勉強したし、先生にも褒めてもらったけれど、このことは上手く伝えられそうにない。仕方がないので、私は自分が思ったことをそのまま言うことにした。
最初から順序立てて話せれば良かったのだけど、自分の一番強い気持ち「ギルベルト様と結婚したい。ギルベルト様と一緒に暮らしたい」を先に言った。それに自分の思うことから言ってしまったので、話が行ったり来たり、前後どころか上下左右にも行ってしまった。小径に入ったのを戻ってみたり、また別の小径に入ったり。自分でも言っていて、わからなくなって何度も同じことを言ったり、訂正したり。とても分かりづらくて、イライラしたと思う。
でも、ギルベルト様は黙って最後まで聴いてくれた。
「では、ルイーゼ殿下は私と結婚して一緒に暮らしたいと思ってくださっているのですね。」
私は大きくうなずいた。首がもげて落ちちゃうのでは?と思うほど、大きく何度も頷いた。それだけでは足りないと思ったのか、でしゃばりな私のお腹も大きな返事をしてくれた。
ギルベルト様はちょっと固まったようだった。だって、人前でお腹が鳴るなんてとてもはしたないことだもの。そんなはしたない女を妻にしたい男性なんているわけがない。政略結婚だから破談にはならないけれど、別々に暮らすんだ、もうこの屋敷には来てもらえないんだ、二度と会えないんだと思ったら、引っ込んでいた涙がまた出てきた。ギルベルト様は席を立った。このまま出て行ってしまうに違いない。ますます涙が出てくる。
けれどギルベルト様はドアの方へは行かなかった。ドアと反対、私の隣に来て、ハンカチを出してくれた。何枚、ハンカチを持っているの?
「申し訳ありません。朝食がまだでしたか?私と一緒に調度品などを選びたいと仰ってくださっていると聞いて舞い上がってしまい、昨夜遅くてお疲れなことにまで気が回りませんでした。お昼過ぎに出直して参ります。」
そう言うと向こうへ行こうとした。
歩き出したギルベルト様はガクっと後ろに引っ張られた。私が服を掴んだからだ。
「あの、、、」
突然私が服を引っ張ったのでギルベルト様は困惑したのか、それだけ言って黙ってしまった。
無言で服を掴んで離さない私。自分でもどうしてそんなことをしたのかわからない。でも、離さない。掴んだまま、じっとギルベルト様を見る。私、どうしたいんだろう?
ハンナが、助け舟を出してくれた。
「殿下、殿下は食堂でお食事を。辺境伯にはお茶のおかわりをお持ちします。」
「殿下、ゆっくりなさってください。私はこちらでお待ちしておりますから。」
ギルベルト様がそう言ってくれたので、ようやく私は掴んでいた手を離した。
食堂に戻るとマーサがいた。置いておいて欲しいと言った朝食が片付けられている。
「すぐに温かいものをお持ちします。」
「私は冷めてもいいから、置いておいてと言ったはずだけど。」
「はい、しかし、殿下に冷めた食事をお出しするわけにはいきません。未来の若奥様に対して、そんなお食事をお出しするのは、使用人として許せません。」
そうね、使用人には使用人のプライドがあるわよね。
うん?今、「未来の若奥様」って言った?言ったわよね。未来の若奥様か。へへ、若奥様。ギルベルト様の奥様。でも、結婚しても今と同じように、テーブルの向こうにギルベルト様はいない。私一人で食事をするんだ、、、
メイドが食事を運んでくる。とっても美味しそう。結婚したら毎日こんな朝食を取れるんだ。嬉しい。でも、ギルベルト様はいない、、、ひとりぼっちで食べるんだ、、、
だって、そうでしょう?私が一緒に住みたい、暮らしたい、と言ったときに「自分もそのように思っていた」と言ったけれど、「では、公爵邸に」とは言ってくれなかったもの。このお屋敷の調度類も一緒に選ぶとは言ってくれたけど、公爵邸のことは一言も言わなかったもの。あれはきっと社交辞令なんだ。やっぱり私は愛されてなくて、お飾りの妻なんだ。
涙がでてきた。
「殿下?」
マーサが声をかけてきた。
「大丈夫、何でもないわ。」
「あの、お一人でのお食事って、美味しくないですよね。ギルベルト様をお呼びしてきましょうか?」
「余計なことをしないで!これからもずっと一人で食べるんだから。結婚しても、私はここで独りぼっちで暮らすんだから!」
マーサは何も悪くないのに、声を荒げてしまった。
王女としてどんな時も冷静であるように教育されてきたけど、いつも守れてはいなかったけど、この時ほど自分の感情が抑えきれず爆発したことはなかった。
「私がギルベルト様から、夫から顧みられないのがそんなに嬉しいの⁈お呼びしたって来てもらえないわ、そんなミジメな気持ちにさせて楽しいの⁈
もう、たくさん。結婚するまでは私はヴェストニアの王女なんだから、この国にいる必要なんてない。ヴェストニアに帰るわ!」
そう言って、食堂を飛び出した。
自分の部屋に入って、ベッドに臥せて泣いた。ギルベルト様が優しくしてくれたのは、私がこの結婚を嫌だと駄々をこねるのが面倒だったから。同じ機嫌を取るなら、駄々をこねた後より、こねないように取る方が楽だと思ったから。私なんか、その他大勢なんだ。元王女の妻という名の置物がいるだけなんだ、そう思うとますます自分がみじめに思えて泣いた。
ハンナとロッテは私にどう声をかけたら良いのか分からず、オロオロしている。
意を決したような声をだすロッテ。
「やっぱり、あの男、殴ってきます。」
それを止めるハンナ。
「離せー!あの自慢の顔を殴ってやる!鼻血出したらいいんだ。それから、急所も蹴り上げてやる!」
ロッテは自分に抱きつくようにして拘束しているハンナを叩き始めた。
飛び出した私に思わずついて来たマーサはロッテが腕を振り回してハンナを叩くのを止めようとして、突き飛ばされてしまい、ひっくり返ってしまった。もう、カオスだ。
しばらくカオスな状態が続いていたが、ロッテも落ち着いてきた。いつのまにかマーサもいなくなっている。
「殿下、帰る準備をしましょう。」
ロッテが言った。帰る準備をしているとノックがあった。
ロッテが対応している。ロッテがハンナに何かを言うと、ハンナは部屋を出て行った。
「ハンナはどうしたの?」
「ケプラー子爵が来られたそうで、ヘルマン夫人を呼ばれました。」
私が感情を爆発させてしまったから、ケプラー子爵が呼ばれたに違いない。彼は爵位こそ子爵と低いけれど、お父様の学友で今は側近を務めており、お父様が絶対の信頼をおく一人。私のこの縁談の交渉人で、私がエルメニアにいる間の後見人だからだ。
ハンナが部屋に戻ってきた。とても明るい顔になっている。何があったのかしら?
「殿下、応接室にいらしてください。ケプラー子爵と辺境伯がお待ちです。お話したいことがあるそうです。」
声も嬉しそう。
「いやよ、行かない。結婚までエルメニアに来る必要はないとか、このお話がなくなったとかに決まっているもの。」
そう言って、ベッドにしがみついた。
ハンナは「殿下も私達もとても大きな勘違いをしていたんですよ」と笑って、天蓋の柱に抱きついている私の腕を剥がそうとする。
「やめてよ。行かないったら行かない!」
「行かないと、後悔しますよ。辺境伯は殿下のことをとても思われていたんですから。」
ギルベルト様が私のことをとても思ってくれていた?別邸に住まわせるのに?
ハンナの言葉には納得がいかないけれど、「行かないと後悔する」という言葉も気になる。なので、気が進まないけれど、行ってみることにした。
応接室に入るとギルベルト様が謝ってきた。
「殿下、私の言葉が足らずに不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。」
もっと、私の機嫌をとっていればよ良かったってこと?そうすれば、私がどんな待遇を受けているか、ケプラー子爵に知られずにすんだ、って。結婚後の私の待遇は取り決めがあるでしょうけれど、結婚前のことは取り決めがないものね。
ケプラー子爵が椅子に掛けるように言う。子爵は笑いながら話し出した。
「殿下はこのジョンストン通りのお屋敷がどのようなお屋敷かご存知なかったのですね。」
知ってる。とても立派なお屋敷。だから王女である私を住まわせるのに相応しいお屋敷。
「このお屋敷はノーザンフィールド公爵家の中で一番立派なお屋敷というだけではなく、代々の嫡男夫妻が住むことが多いお屋敷なのですよ。」
「申し訳ありません。ご存知だとばかり。いえ、たとえご存知であっても、結婚もしていないのにそんなお屋敷に滞在なさるのは不快ですよね。
本当に申し訳ございません。」
申し訳なさそうにギルベルト様が言った。
代々の嫡男夫婦が住む、それって私を嫡男の妻として扱ってくれていたってこと?ただの大事な客なら公爵邸だけど、私は嫡男の妻になる人物だからこのお屋敷に滞在するようにさせてくれたってこと?
あ!あのナタリー様の「どんだけ気が早いのよ」って言葉、「まだ結婚してもないのに嫡男夫妻が住む屋敷に滞在させているから『気が早い』」って意味だったんだ。だって、結婚は少なくともギルベルト様が学校を卒業してからだから一年以上先だもの。もしかすると、王太子殿下がグロリア様と結婚なさってからかもしれない。もしかするとではなくきっとそうだ。だからナタリー様は「どんだけ気が早いの」と冷やかしたのだ。
なあんだ。ギルベルト様は最初から私の事を婚約者として、未来の妻として思っていてくれてたんだ。それに相応しい待遇で迎えてくれてたんだ。それを私一人が「公爵邸でないから歓迎されていない。私は不細工だから愛されない。だから私は一人でここに住んで、ギルベルト様は愛する人と公爵邸で暮らす」と思い込んで、落ち込んでいたんだ。馬鹿みたい。みたいではなくて、本当に馬鹿だわ。でも、良かった。
そう思ったら、涙が出てきた。おかしいわね。今、私はとても幸せなはず。なのに涙が出るなんて!
「殿下?」
ギルベルト様が不安そうに声をかける。
「なんでもないです。
私はカタリーナお姉様やヨハンナお姉様みたいに美人じゃないし、不細工だしオシャレでもないし、辺境伯みたいなイケメンでスマートな人には釣り合わない、きっと愛してもらえないってずっと思っていたんです。婚約発表も仕方のないこととはいえ延期になっていたし。
だからエルメニア王宮の夜会に誘ってもらえて嬉しかった。だけど、公爵邸でなく別邸に滞在する様に言われたから、結婚しても私とは一緒に住まない、私は別邸で辺境伯は愛している人と公爵邸で暮らすと言われていると思ってしまって
でも、今、このお屋敷がどんなお屋敷か聞いて、そんなに私の事を大事に思っていてくれていたんだ、って思ったら、勝手に涙が出てきてしまって、、、」
「殿下がどうお感じになるかも考えず私が軽率な行動をしたせいで殿下の誤解を招き、不安にさせてしまったのですね。申し訳ございません。」
ギルベルト様はそう言って、もう一度謝ってくれた。
ケプラー子爵は「後はお二人でよく話し合ってください」と席を立った。ロッテは「ヘルマン夫人、お邪魔虫は消えますよ」と、ハンナをぐいぐいドアの方に押した。部屋から出た後、顔だけのぞかせて「殿下、ギルベルト様、まだ結婚してないんだから、変なことしちゃダメですよ」と言ってドアを閉めた。
私達は完全に二人きりになった。
私はこのお話を聞いてからの自分の気持ちをギルベルト様に伝えた。ギルベルト様も自分の気持ちを私に話してくれた。私がいろいろ不安に思っていたように、ギルベルト様も不安に思っていたということがわかった。お互いに「相手に嫌われていたらどうしよう」と思っていたのだ。
「馬鹿みたいですね。」
私がそう言うと、ギルベルト様も「本当にそうですね」と言って、互いに顔を見合わせて笑った。
それからギルベルト様は私に暖炉の前に立つように言った。私はよくわからないまま、ギルベルト様のいう通りに、暖炉の前に立った。ギルベルト様は私の前で跪き、こう言った。
「殿下、これからは私が殿下の隣にいることを許していただけますか?」
あ、これ、昔私が妄想したやつだ。あの時はこんなことがあったらいいなぁと思ってたやつだ。現実になったんだ。
涙がボロボロ出てくる。
「はい。」
そう返事をするのが精一杯。なんとか差し出した手にギルベルト様がキスをしてくれた。
こうして二人は幸せに暮らしました。物語はこれで終わるけれど、私とギルベルト様はここからが始まり。
ハッピーエンドのその先を、ギルベルト様と私、二人で確かめに行くの。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
ハッピーエンドのその先のお話を書けたらなぁと思っています。




