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32話


 国王としてのお父様は忙しくてお話しできないし、お母様は「ルイーゼ、辛い思いをさせたわね。お父様が婚約解消してくださるわ。もう、我慢する必要はないのよ。」と話にならない。唯一、カタリーナお姉様がなんとか説得しようとしてくれている。

 今日は雨が降っていて、王宮の庭の散歩が出来ずに私は腐っていた。

「殿下、辺境伯との婚約、なくなってしまうんですかね?」

ロッテが心配そうに聞いてくる。ロッテはエルメニアで好きな人ができたので、私がギルベルト様との婚約を続けられるかどうかは死活問題。ちょっと言い過ぎだけど、そのくらいの心地のはず。

 いつもは元気なロッテだけど、ヴェストニアに帰ってからずっと沈んだまま。王女の侍女であるロッテとエルメニアの下流階級のウォーカー、身分違いこ二人の交際は公にできない。だから、直接の手紙のやりとりもできない。私とギルベルト様の手紙に紛れ込ませればいいのだろうけど、婚約解消を考えているお父様に私とギルベルト様の手紙のやりとりも必要ないとされてしまった。

「ロッテ、巻き込んじゃってごめんね。私がヴェストニアに帰らなければ、こんなことにはならなかったのに。公爵はこんなことになるのを見越して、行儀見習いを口実に私がエルメニアに残れるようにしてくれてたのに。自分の浅慮さが嫌になるわ。」

「仕方ないです。まさか、ヴェストニアに『殿下が危害を加えられている』って、そんなふうに伝わってたなんて思わなかったですから。」

ロッテが自分を納得させるように言った。

 そうよね、仕方ないよね。だって、こんなことになるなんて思ってなかったし。帰ってから何日も経つけど、一度もお父様とお話しできていないけど、お父様はお忙しいもの。私は王女、政略結婚の道具だもの、お父様の意向に従うべきだし、仕方ない。

 仕方ない、で済ませられるかぁ!私とロッテの一生がかかっているのに。私はお父様の執務室に向かって駆け出した。

 ノックと同時にドアを自分で開ける。

「お父様、私のお話を聞いてください!」

いきなり乱入し、大声を出す私に驚き、お父様はビクッとして持っていたカップからコーヒーをこぼした。一緒に執務中のお姉様もびっくりした顔をしている。

「ルイーゼ、突然、どうしたんだね、騒々しい。」

「お父様、私のお話を聞いて!」

ため息をつくお父様。

「ルイーゼ、ノーザンフィールド公爵家との結婚の話なら、」

「結婚するのは私なの。だから、私の話を聞いて!」

いくら王女といっても、身分上は国王と臣下。臣下が国王の話を遮るなんて、とても無礼なこと。でも、今は娘として父親に訴えている!お姉様も「結婚するのはルイーゼ、話を聞いてあげて」と口添えをしてくれた。

 私はどれだけギルベルト様が好きか、どんなにギルベルト様と結婚したいかを訴えた。

「お前はそうであっても、相手もそうとはかぎらないだろう。」

「いいえ、ギルベルト様も私と結婚したいって言ってくれました。」

「政略結婚といえどもお前は王女だし、まだ婚約しているのに『結婚したくない』などといえば国際問題になりかねない。そんなことをいう馬鹿はいないよ。」

そうかもしれないけれど、、、少なくともギルベルト様は私と結婚してもよい思ってくれているし、何より私がギルベルト様と結婚したいの!

 お父様は頭を振った。

「お前は責任感の強い子だからね。自分でそう思い込んでいるだけだよ。ローゼニアとのつながりはカタリーナがアルトドラッヘン辺境伯の息子と結婚するので心配はいらない。

エルメニアではお前が婚約破棄をされたと噂があるらしいし、学校でも危害を加えられているそうじゃないか。そんな好意的でない場所にお前が行くなんて、心配だよ。」

どう言ったらわかってもらえるのかしら?

 ローゼニアとのつながりは強い方がいいし、学校で危害を加えられているといっても物を隠される程度だし、婚約解消なんてしたら噂に負けたことになる。私はそう主張した。

「まあ、たしかにローゼニアとのつながりは強い方が良いが、そんな悪意ある場所にいるのは辛いだろう?無理をする必要はない。」

お父様のわからず屋!

「私はギルベルト様のことが好きです、結婚したいです。だから辛いことなんてありません。むしろ、ギルベルト様と結婚できない方が辛いです!」

私は必死だった。

 お姉様が冷静に言った。

「お父様、もしルイーゼと辺境伯の婚約を解消した場合、ルイーゼの結婚相手はどなたを考えておられます?」

「それは、、、今すぐには思いつかないが、いずれ王女であるルイーゼに相応しい相手を、、、」

明確な返事を避けるお父様。

「『いずれ』とはいつです?

もともとルイーゼには縁談は少なかったですよね。誰とも話になっていなかった頃ならともかく、あの、ノーザンフィールド公爵家と婚約し、エルメニアに留学した際には公爵家は嫡男夫婦が居を構えることが多いお屋敷まで用意したんですよ。向こうは解消を望んでなく、長期休暇も王都に残って行儀見習いをして欲しいとまで言われたのです。それをこちらの都合で一方的に解消してどこの家がルイーゼと結婚したいと思うんです?エルメニアやヴェストニア国内の貴族どころか周辺の国でさえ敬遠しますよ。ローゼニアに睨まれたくないですからね。

莫大な持参金を餌にヴェストニア国内の平民に嫁がせますか?その場合、ルイーゼは『行き先のない娘をもらってやった』と軽んじられて、大事にしてもらえないでしょうね。

まさか、嫁入り先がないから修道院に行けとは仰らないですよね。」

「それは、、、」

そうよね、私に来る縁談は少なかったし、別に小国が悪いわけではないけど、きても辺境の小国だったものね。国王長子の(ちょっと適齢期からはずれてるけど)カタリーナお姉様や美人で有名なヨハンナお姉様はともかく、そこまで美人でなくて女のくせに学問をしている私には、ローゼニアで外国といえども、ノーザンフィールド公爵嫡男であるギルベルト様はこれ以上望みようのない相手だったもの。

 お父様は言葉に詰まったまま。そんなお父様に痺れを切らしたのか、お姉様は衝撃的な発言をした。

「もし、ルイーゼと辺境伯の婚約を私とミヒャエルが結婚するから解消しても良いとお考えなら、私はミヒャエルと結婚しません。」

ええ、何言ってるの?エルメニアではお姉様はミヒャエル様はいい感じだったのに、本当は嫌だったの?

「家の都合で婚約に心躍らせたり、できなかったり、また婚約したり、もうたくさん!そんな思いをするのは私だけで十分です!」

「カタリーナ、、、」

「婚約できないだけでなく、心ない噂をされてどれだけ傷ついたことか。あの時は嫡男であるミヒャエルとは結婚できる状況ではなかったですから、王族として王女としてそれは仕方ないことと諦めもつきました。けれど、ルイーゼはあの時の私と違い、結婚できない理由はどこにもないではないですか。ローゼニアとの結びつきも強まり、相手である辺境伯もルイーゼを望んでくれている。何か不都合なことがありますか?」

お姉様、本気で怒っている。こんなに感情を露わにしたのをみたことがない。国王であるお父様は気圧されたようで、何も言えないでいた。

 私は「お姉様」と話しかけた。

「私のためにお姉様が婚約解消するなんて嫌です。それに、ミヒャエル兄様との婚約を解消してお姉様はどうされるおつもりですか?」

「私もミヒャエルも十分大人ですもの。どうにでもなります。」

そう言ってお姉様は微笑んだ。どうにでもなるって、どうなるの?どうするの?まさか駆け落ち⁈

 お姉様はお父様の方を見た。

「陛下、ご決断を。国王としても父親としても答えはひとつしかないと存じますが。」

 お父様は少し考えているようだった。

「まあ、相手の男もルイーゼの事を大事にしてくれているようだし、結婚はそのままでも良いか。」

お父様、ギルベルト様のことを「男」って。でも、結婚自体はなくならないみたい。

「お姉様、ありがとう!」

お姉様に抱きついた。

 お姉様は笑って、「抱きつく相手が違うわよ」と言いながらも抱き返してくれた。お姉様にそう言われたので、

「陛下、ありがとう存じます。」

とお父様に向かってカーテシーをした。お父様は「あ、ああ」と少し残念そうな顔をしている。

「意地悪しないの。」

お姉様に背中を押された。

「お父様、大好き!」

お父様に抱きつくと、

「困った娘だ。今は執務中だというのに、抱きついて邪魔をするなど。」

と嬉しそうな顔で言われた。

 婚約解消にならなくて良かったわ。安心したら、大事なことを思い出した。制服姿をお父様とお母様に見せてない。今晩あたりにでも見てもらわなくちゃ。

「お父様、聖白百合学園の制服を持って帰ったの。とても可愛らしい制服で、今晩にでもお父様にみていただきたいわ。お母様にも。アルトドラッヘン辺境伯夫妻にもとても誉めていただいたの。」

「そうか、それは是非見せてもらわないとな。

しかし、今晩は用事がある。またにしよう。なに、そんなに残念そうな顔をする必要はない。お前が結婚するのは向こうが学校を卒業してからだろうから、まだ半年はある。いつでも見られるよ。」

お父様、何言ってるのかしら?早くエルメニアに帰らないと新学期に間に合わないのに。

「結婚は許可したが、学校は別だ。今はまだ物を隠されたりする程度で済んでいるが、いつ身体的危害を加えられるかわからん。それに犯人はエルメニア国王の亡き妃の実家の筆頭公爵家の娘だというではないか。

本来、そんなことをする者を諌める立場にある者が率先してそのようなことをする環境に、お前をやるわけにはいかないよ。

さあ、部屋に帰りなさい。」

 ギルベルトさまとの婚約は続行だけど、学校は退学しないといけないかも、、、

 トボトボと自分の部屋に帰る。途中、ヴンダーカンマーがある。入ってみる。

 まだギルベルト様と正式に婚約する前、国王陛下の愛人が自分の姪をギルベルト様と結婚させようとしていると聞いて、この部屋で泣いたっけ。その姪、今どうしてるんだろう?その人もギルベルト様のことが好きだったのかな?

 私は随分欲張りになったな。ギルベルト様との話が出る前は「顔は人並み、私を正妻として遇してくれる人」ならいいと思ってた。「別宅に住まわせるなら愛人はいてもいい」とも。それがいまや「絶対にギルベルト様と結婚したい。少しでもそばにいたい」だもの。そのためにエルメニアに留学までして。

「殿下、早くお部屋に帰りましょうよ。」

ロッテが声をかけてきた。

「ロッテ、私、もう一度お父様と話してくる。」

私はもう一度お父様の執務室に向かった。

 執務室に戻ってきた私にお父様は「忘れ物かね」と声をかけてきた。

「はい、エルメニアに出発する許可をいただくのを忘れておりました。そろそろ出発しないと、新学期に間に合いません。」

当然、お父様は首を横に振る。

「ダメだ。」

「お父様、学校で私に意地悪をする人は私がオロオロするのを期待しているのです。学校をやめれば、私を追い出せたと喜ぶに違いありません。ですから、学校をやめるのは逆効果だと思います。」

「今はまだ、物を隠したり盗ったりするくらいで済んでいるが、こういう行為はエスカレートすることも多い。身体的に被害が出てからでは遅いのだよ。

勉強がしたいのなら、今迄通り学者を頼めばいい。」

お父様の言うことはもっともだ。けれど、さすがに身体的に被害が出れば有耶無耶にはできない。犯人を探さなくてはならなくなる。他国とはいえ王女に危害を加えれば家がなくなる可能性が高いので、そこまではしないと思うけど。

 けれど、普通は私の物を隠したりするだけでも大問題、バレれば家になんらかの影響、最悪お家お取り潰し。教科書を隠されればこまらないわけではないけど翌日帰ってくるし、面倒なので放っているだけ。なのに、というか私が咎めなかったからか盗った物を学校で持ち歩いている令嬢もいる。落としたらどうしようとか、考えないのかしら?そんな人達の集まりなので、身体的な危害も絶対にないとは言い切れない。やっぱり、「学校に行きたい」とお父様を説得するのは無理なのかしら?

 「お父様。」

お姉様だ。お姉様は学校だけでなく社交界でも嫉妬によるいじめはあることを話した。

「学校に通わなければ、ルイーゼが危害を加えられることはないでしょうけれど、危害を加えられる場面は学校だけではないのです。学校はやめればそれでいいでしょう。けれど、ルイーゼは結婚すればノーザンフィールド公爵の嫡男シュバルツ辺境伯の夫人として社交界にでなければなりません。公爵家が社交に熱心ではないとしても、まったく出ないで良いわけではないでしょう。今学校で嫉妬からルイーゼに意地悪をしている人達はルイーゼを退学させたという成功体験があるわけですから、ルイーゼを社交界から退場させようと周りを巻き込んで今度こそ身体的危害を加えるかもしれません。

その時、ルイーゼはどうなりますか?ある程度は公爵家の庇護があるにしても、女性と男性では違う世界ですから、男性であるシュバルツ辺境伯がルイーゼを庇うのは限界があります。エルメニアに知り合いもおらず、学校もやめてしまったルイーゼには社交界で頼れる人も助けてくれる知人もいないのです。」

「お父様、学校ではお友達もできて、少しづつ人脈も築けていると思います。それに今やめてしまえば、私に意地悪をしている人に屈することになります。そんなのは嫌です。ですから学校はやめません。」

私はキッパリと言った。

 お父様は学校に通うのは構わないが、今回のことが解決したと子爵から報告があってからにするようにと言った。今回のことがそんなに早く解決するとは思えない。

「子爵が帰ってからでは新学期に間に合いません。間に合うように、明後日には出発したいと思います。準備があるので、失礼します。」

お父様の返事を待たずに執務室を出た。

 翌日、ハンナとロッテがエルメニアへの荷造りをするのをぼんやり眺めていた。お父様の許可はおりていない。エルメニアまでの旅の手配、どうしよう?今晩にでもカタリーナお姉様に相談しなくちゃ。

 ノックがあって、ヨハンナお姉様が入ってくる。

「ルイーゼ、お父様のお許しがないのに、明後日帰るって本気?

あ、荷造りしてる。本当に帰っちゃうんだ。学校で意地悪されてるんでしょ。学校なんか行かずに、結婚までヴェストニアにいればいいのに。結婚したらヴェストニアにはなかなか帰ってこれなくなっちゃうじゃない。」

「結婚までお父様達と一緒にいたい気持ちもあるけれど、エルメニアで知人も作りたいし、学校はお友達もいて楽しいもの。嫌なこともあるけど。」

物を隠されたり、大事な万年筆を盗られたり、腹の立つこともあるけど、仲の良い人や興味が一緒の人とおしゃべりをするのは楽しい。

「それに、ギルベルト様は私がヴェストニアに帰るのを快く許してくれると思うの。ギルベルト様自身はエルメニアの王太子殿下の側近として忙しいから、一緒に来るのは無理だと思うけど。」

 ヨハンナお姉様はニヤと笑った。

「素直じゃないなぁ、ルイーゼは。」

何が素直じゃないの?

「留学は結婚前でも婚約者のいるエルメニアにいる口実なんでしょ。」

「何を言ってるの、お姉様。私が学校に行くのはエルメニアで人脈を作るためよ。聖白百合学園は貴族令嬢のための学校だもの、卒業後も交流があるみたいだし、人脈を作るにはうってつけなの。」

ギルベルト様のそばに居たいとという気持ちがないわけじゃないけど。

「そんなに取り繕わなくてもいいのに。」

お姉様はそう言って笑った。

 お姉様は私とギルベルト様のことに興味津々みたいで、いろいろと聞かれる。どこに行ったかとか、どのくらいの頻度で会っているかとか。そしてギルベルト様の趣味とか癖まで。

「どうしてそんなにギルベルト様のことを聞くの?」

「いいじゃない、気になるんだから。教えなさいよ。私の夫だったかもしれないんだから。」

お姉様のこの言葉に私の目から滝のように涙が流れ出した。

 私の結婚はローゼニアとの結びつきを強めるためだけのまったくの政略結婚。ギルベルト様の相手は私達三姉妹の誰でも良かった。カタリーナお姉様は明るくて社交的だけど、ギルベルト様と歳が離れすぎている。だから私とヨハンナお姉様のどちらかが候補になった。ヨハンナお姉様は美人でおしゃれでダンスもチェンバロも上手。それに引き換え私は容姿もダンスも楽器も努力して人並み。さらに「女には必要ない」とされる学問が大好き。貴族夫人として望まれるのは、人気なのは、断然お姉様の方。もし、二人が会えばギルベルト様とヨハンナお姉様は互いに好きになっちゃうかも!お姉様は未だに婚約者がいないし。そうなれば私に勝ち目はない。婚約破棄!

 慌てるお姉様。

「え、ちょっと、ルイーゼ、どうしたの?そんなに聞かれたくなかったの?もう、聞かない、聞かないから。泣かないで。」

 そこへ、カタリーナお姉様が来た。

「ヨハンナ、何をしたの?ダメじゃない、ルイーゼを泣かしちゃ。」

部屋に入って私が泣いているの見た途端、ヨハンナお姉様が何かをして私を泣かしたと決めつける。

「私は何もしてないわよ。ちょっと婚約者のことを聞いたら、泣きだしたのよ。」

「どうしてそんないらないことを、、、」

カタリーナお姉様はため息をついた。お姉様は私が幼い頃、お見合いをした相手から「チェ、美人の姉の方じゃないのかよ」と言われたことがあるのを知っていたから、私がどうして泣いているか察したみたい。

 お姉様は気をとりなおすように少し首を振った。

「ヨハンナがルイーゼの部屋に行くのを見かけたのよ。用事もないのに何しに部屋に行くのかと思ったら、やっぱりヨハンナはルイーゼを泣かしてた。」

「濡れ衣よ。まさか婚約者のことを聞いたら泣くなんて思わないじゃないの。」

「とにかく、今後、ルイーゼには婚約者のことを聞かないようにしてちょうだい。話したければ勝手に話すでしょうから。

もう、ヨハンナは離れていれば寂しがるくせに、一緒にいればすぐにルイーゼを泣かすんだから。」

カタリーナお姉様は呆れたように言うと、ヨハンナお姉様を連れて部屋をいった。

 明日どころか今日出発しても新学期には間に合わないかもしれないというのに、子爵はまだ帰って来ない。向こうでの話し合いが長引いているに違いない。何しろ私の万年筆を持っていたのはエルメニア国王の亡き正妃の実家の令嬢。貴族は何より名誉や体面を重んじる。泥棒を働いたなんて大変な不名誉。

 この件を短期間で解決しようというのは無理がある。本人は盗んだのではなく、カバンに入っていたと主張している。エヴァンジェリン様は取り巻きに囲まれて一人になることなんかない。衆人環視の中で私の万年筆を盗ったとは思えないけど、盗ってないならどうしてカバンに入っており、何日も返さずにいたか説明がつかない。まず、ここを解決してからでないと話し合いは進まない。

 カタリーナお姉様に早く出発したいと相談したけれど、子爵が帰ってくるまで待つように言われてしまった。

「お父様も貴女が学校に通う利点については認めてらっしゃるの。けれど、今はまだ物を隠されたりの意地悪だけど、いつか身体的に危害が加えられるのではないかと心配なのよ。

子爵は必ずお父様の納得する結果を持って帰ってくれるわ。だから、子爵が帰ってきたらすぐに出発できるように支度だけはしておきなさい。」

そう言われた。

 子爵はその日の夜遅くに帰ってきた。真夜中にもかかわらず、報告のためにお父様に面会を求めた。話し合いの結果はお父様の満足のいくものではなかったようだけれど、私はエルメニアへの出発を許された。

 報告が終わる頃には夜が明けていたので、そのまますぐにエルメニアに出発しようとしてくれたけれど、お父様がそれを許さなかった。

「一週間くらいこちらでゆっくり過ごすといい。」

したがって、私の出発も一週間延期された。

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